泡沫の夢
□05
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「―――っ!」
ばちっ、と瞳を開いた。
額や背中を、冷や汗が伝い落ちる。
ぎゅうっといつの間にか握りしめていたベッドシーツには皺が寄っている。
高校生にもなってらしくないが、目元には涙まで浮かんでいる。
ああ、情けない話、怖い夢を見ていたようだ。
未だに心臓がばくばくと脈を打つ。
何の夢だったか。目を覚ましてしまえば思い出せないけれど、良い夢ではなかったと断言できるのは確か。
暗くて、冷たくて、まるであの場所のようで。
顔を両手で覆えば目元に溜まった涙が零れ落ちた。
05 1-A
「大神ちゃん、おはよう」
「…はよ」
今朝の夢を未だに引きずっていたせいか、いつになくアンニュイな雰囲気を漂わせてしまう。
初日からあんな態度を取ってしまったというのに、蛙吹さんは変わらず私に話しかけてくれる。
本当に…申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
これをあと3年は続けなきゃいけないと思うと心苦しい。
腫らした目元を隠す様に、いつも以上に帽子を深くまで被る。
そして教室のすみっこに座っていれば誰も話しかけない。
「おっはよー!今日もクールに決めてるねぇ!満槻ちゃん!」
「おはようございます大神さん」
「はよーっす!大神、元気かぁ?暗い顔してんな!」
「どけ邪魔だモブ共!!!俺の席の周りに寄るな!!!」
「いや寄ってねぇよ!!」
普通の高校生なら、の話だ。
さすが雄英と言えるだろうか。
生徒にも一癖、二癖ある連中が集まってるみたい。
寧ろ素っ気ない態度をすればするほど構ってくるというか、乱暴そうな爆豪君にだってみんな積極的に話しかけてる。
そんな中、教室で一人勝手に無視決め込む自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「あれっ!?今大神ちゃん笑った!?」
「…見間違いでしょ」
「うっそ!見逃したわ〜!!」
「なぁなぁ大神!ニコーって!笑ってみろって!」
切島君は自分の口元を持ち上げていう。
ただ単に不愛想を演じているだけあってか、本当は爆笑したい気持ちに駆られている。
このクラスは、素敵だ。
でも、それはいけない。
その気持ちはきっと、いけないんだ。
「……黙って。うるさい。私の事は放って置いてよ」
眉間に皺がよる。
だから一層帽子を下に引き下げる。
既に防止で眉間は隠れているというのに。
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