泡沫の夢
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「…"洗脳"だ」
重々しく呟き、視線を私から逸らす。
ああ、なるほど。と勝手に私は自己完結した。
少し目を細めて心操君を見据えた。
今の心操君の口から出た言葉を脳内でマインドマップにしてみれば。
ヒーロー科に訳があって、個性は"洗脳"
とくればその次につながるものは"ヴィラン"だろう。
洗脳と聞いて、普通の人間はヴィラン向きだね、と答えるのが多いと思う。
…はたしてそれはどうだろうか。
場数を心操君よりも圧倒的に踏んできているので、客観的に見てその個性は
「めちゃくちゃ現場に欲しい」
「え?」
「ンンッ!なんでもないなんでもない」
つい心の本音が口を突いて出てしまったようだ。
心操君の個性は明らかな対人用であって、ここ雄英では人でないものを使うことが多い。
だからきっと普通科にいるのだろう。
普通科に至ったまでの経緯はさすがに本人から聞くしかないから分からないけど。
「…私の姉がヒーローで、私はよく姉から現場の話とか聞くんだけどさ」
「…」
「その個性、凄い実戦向きだと思う」
「…は?」
「まぁまぁ聞いてよ。私分析するのも好きでね…。
実際問題、ヒーロー科試験のときってあのロボと戦うことになったけど、それって合理的かって言われたら違うと思うんだよね、私は」
にやりと笑みを零し、ニット帽を少し上にあげた。
勿論私に姉なんているわけがない。
心操君は少し驚きながら、私の話に耳を傾けている。
「だって実戦では対人でしょ?現代社会にロボットが人並の生活を送ってる?
ロボットが個性を持ってる?そんなわけない。SF映画じゃあるまいし。
それに心操君は普通科でもし肩を落としていようとも、私は君自身がこの雄英にいること自体が既にすごいことだと思うよ。
ヒーローになるための高校なんて腐る程ある。
その中の最高峰である雄英に、それが普通科だろうが在籍しているってのはとっても素晴らしいこと」
君、かなりの実力科なんだね。
くすりと笑って見せれば、心操君は顔を急に真っ赤に染めた。
「なっ、なん…お前っ…!」
「褒めたんだよ。…素直に受け取ってくれよ」
「俺を褒めるってお前…やっぱ変じゃねぇのかよ…」
「でも現場には必要だよ。
私もいつも困ってるんだけど、救助者がパニックに陥ったり個性乱用したりする人を鎮めるのが苦手で…
対話時間が短かったり対話状態にない人を落ち着かせるのは私の苦手分野なんですよ」
「…いつも?」
「ハッ!?……って姉がいつも言ってる」
ついつい本音が漏れてしまい、慌てて取り繕う。
「意外とお前喋るんだな。無口タイプかと思った」
「…失礼な。それなりに喋るよ」
「お前って面白い奴かも。なぁ、友達いねーんなら、俺と友達にならねぇか?」
「だから友達はいないなんて―――って、え?」
「そういやあ、俺の名前言ってなかったな。
つーか、普通どこの科を聞くよりも名前聞くんじゃねぇの?」
「…」
それは、私は心操君の事は知ってたから。
確かにあの時私だけ一方的に名前を告げて、高校生の私は彼の名前を聞いていなかった。
「俺は心操人使。よろしくな、大神さん」
「よろしく」
高校生になって、友達第一号はまさかの心操君だった。
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