泡沫の夢

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ようやく自分の教室にたどり着き、自分の席を探して着席する。
エンデヴァーさんの一見然り、轟君の意外と鋭い感性にも驚かされ、入学早々幸先が不安になってきた。
思わず深いため息をつけば、隣の席の子から「大丈夫か?」なんて声をかけられて心配される始末。
私は小さく大丈夫ですと答えた。



「驚いた。お前もヒーロー科なんだな」

「っ!?!?」



思わず私は顔を上げた。
なぜなら隣に座る人物は先ほど下駄箱で目ざとく私の事を「フェンリル」と呼んだ轟君張本人がいるのだから。
ずり落ちた眼鏡を戻して、私は落ち着け落ち着け、と自分に言い聞かせる。
なに、轟君にはバレていないんだ。なら、問題は無い。そうでしょう。
なら何も慌てることは無いんだ…。




「…うん。そう」



帽子を目深く被って、轟君と目線を合わせないようにした。




「名前は?」

「え?」

「あんたの名前。…これから一緒のクラスなんだし、名前、呼ぶときに必要だろ?」

「……満槻。大神満槻」

「大神か。俺は轟焦凍。よろしく」



聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で「よろしく」と返答した。



「あなた満槻ちゃんっていうの?」

「!?」



今度は前の方からくるりとこちらを振り返って、緑の髪の女の子が首を傾げながら聞いてきた。
まさか再び声をかけられるとは思わず、ドキッと背筋を震わせた。驚いてばかりだ、今日は。




「あなたきっと"犬"の個性よね。筆記試験の時、私の前だったから覚えてるわ。ピョコピョコ耳が動いていたもの」

「……邪魔して、ごめん」



気が散って悪かったね、と付け加えれば口元に人差し指を当てながら、女の子は首を横に振った。



「気を悪くしたらごめんなさいね。あなたの耳、とっても可愛かったから覚えてるのよ」

「かっ…!?」




思わず目を見開けば、女の子はにっこり笑う。




「私は蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んでちょうだい。お友達になりましょ、満槻ちゃん」

「……あ……」

「あっ、私も私もーー!!」



と、梅雨ちゃんという女の子の後ろからひょっこり顔を出してきたのは、ピンクの髪の毛と頭に触角が生えた特徴的な女の子。




「私、芦戸三奈っていうのー!!」




そこからはクラス中を巻き込んで自己紹介が始まった。
どうしてこうなったか、殆どが女子ばかり集まってきていた。
私の周囲を女の子たちが囲い、どうしようと焦っていると。




「満槻ってさ、スカート長いよね。なんで?」



パンク系の女子、さっき名前を…耳郎響香って言ってたかな。
私のスカートを指摘した。
ああ、さすがにこれ以上はまずいと思い、私はぐっと唇を噛みしめて、それからいう。




「…別に。わ、私……な、仲良しごっこしに…学校きたわけじゃないから……なれ合いとか、そういうの…嫌い…」




ぐっと眉間に皺が寄ってしまう。
これは本気で嫌悪しているわけじゃなくて、心にでもないことをいうのが辛いだけだ。
それを聞いた女子たちは一瞬の間の後、それぞれに動揺を露わにしながら私の元から去っていく。
ただ、蛙吹さんはまだ目の前にいて。
私はこれ以上何も言わせないでほしいと思いつつも、口を開いた。



「…何、まだ何かあるの?」

「……ごめんなさいね。私があなたに声をかけてしまったばっかりに」

「え?」

「それじゃあ」



悪いのは私の方なのに。
蛙吹さんは一言いうと、自分の席に戻って行った。
本当はこんなことしたくなかった。
でも私の正体がバレるわけにはいかないんだ。
仕方ない、仕方ないと言い聞かせて、私は拳を握りしめ、先生が来るのを待っていた。



「おい…ここはヒーロー科だぞ」



唐突に。
にゅっと寝袋から姿を現した上から下まで真っ黒な服に身を包んだ人物。
汚らし…おっと口が滑った。見た目やばそうな人だが私はこの人を嫌というほど知っている。




「ハイ。静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」




この男、見た目こそ使い古したボロ雑巾のようだが、その正体は『抹消ヒーロー、イレイザーヘッド』
とある仕事で3日この人のアシスタントをやらせてもらったことがあるが、まぁ気が合わないのなんの。
あの日は確か満月の晴れた夜で―――白銀の毛を持つ私と、暗闇に浮かぶ赤い目を持つイレイザーヘッドのコンビは風情があると、この人の同僚が言っていたのを覚えている。
見た目は風情があったかもしれないけれども、イレイザーは私の事をヴィランと間違えて捕獲するわ、殴るわ、暴言吐くわでもうキレそうだった。
最早私に対する嫌がらせとでも言ってもいい。
ちなみにその同僚も、ここ、雄英の先生なのだが。

それはさておき、まさかイレイザー、このクラスの担任とは言わないよね…?




「相澤消太。ここのクラスの担任だ。よろしくね」




淡々と挨拶を告げ、クラスはイレイザーの妙な登場に唖然とする中、私は一人教室で頭を抱えていた。
今年、間違いなく厄年なんだろうと嘆きながら。




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