青天の霹靂
□Ride.8
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―――というわけで。
「……この格好変じゃないかなぁ」
休日。
新開さんとの待ち合わせ時間に間に合うように30分まえから駅前で待っているのだが。
なるべく控えめで且つカジュアルな服装を選んできた。
馬鹿みたいに早く来すぎたせいで、ソワソワしっぱなし。
終いには服装がやっぱりアレにすればよかっただの、これじゃあ変だの、気になるところが出てきてしまう始末。
なんだ彼氏を待つ彼女みたいな気分だな。
うんうんと頭を悩ませていると。
「おはよう。湊」
「新開さん!…と、荒北さん?」
「チッ…」
新開さんの後ろには不機嫌そうな荒北さん。
挨拶代わりに舌打ちされた。これ如何に。
「靖友も用品そろえたいって」
「アァ!?俺はンなコト…」
「だろ?靖友」
「……そうだヨ」
様子の可笑しい荒北さんに疑問を抱くが、せっかくの休日だ。
楽しまないほうが勿体ない。
「湊、今日の予算はどれくらいだ?」
「ざっと8万くらい…」
「ヒュウ!結構持ってるんだな」
「まぁ…」
一応、金持ちといえばそうだが。
親のスネを齧って生きてるって感じがして、すごく嫌だけど。
高校卒業するまでの我慢…かな。
「今日はジャージとサイコンと…」
指折りしながらざっとの金額を頭の中で計算する。
ウェアだけでも2万単位だからなぁ…。
だからと言ってジャージで過ごすわけにもいかないし。
「荒北さんは何を買うんですか?」
「俺は…えーと…あれだよアレ」
「?」
「っ…アレだっつの!!!」
「!?」
逆ギレされた。
顔を引き攣らせながら、ズカズカ歩いていく荒北さんの背中を見ていた。
***
「自転車がいっぱい…!!」
新開さんに連れられてきたお店。
サイクルショップ「HAKONE」
個人でやっているお店の割にはかなり広くて。
取り扱っている自転車は数知れない。
素人の俺の目に余るような自転車だったり…たくさんいる箱学の自転車競技部でも誰も持っていないメーカーもあったりする。
自転車用品の一から百まですべてありとあらゆる在庫があるといっても過言ではないくらいで…
「すごい目を輝かせてるんだな」
「すごいです!だってこのお店沢山の種類があるんですよ!?」
「…連れてきてよかったよ」
「ありがとうございます!!」
色々なものに目を通しているうちに、サイクルウェアのコーナーに来た。
もう夏ということで半袖のウェアが沢山揃えられてる。
どれにしようか迷っていると。
「オルベア…!」
俺の自転車と同じカラーのウェアを見つけた。
黒がベースとなっていて線やロゴは青や白。
「…」
ぺらっと名札をめくってみると、まぁ想定内のお値段で。
とりあえずこれ買おうかな…。
前に一度女子と買い物に行ったことがあるけどそれは大層つまらなかったという苦い思い出がある。
いくら新開さん達も用品を買いに来たついでとはいえ、待たせるのはよくないだろう。
さっさとレジに持って行ってお会計を済ませよう。
…。
なんだろ。
妙に静かだな…。
「ありがとうございました」
店員さんからおつりと領収書を受け取って、くるりと後ろを振り返った。
「…あり?」
そこに、二人の姿は無かった。