青天の霹靂
□Ride.7
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早朝。
妙に頭がすっきりして、目が覚めた。
時計を見てもまだまだ時間に余裕はある。
「…」
あの後福富さんが収集を付けてくれて、あとはいつも通りの練習を開始して。
それでこそ王者の風格だ、なんて密かに笑ったものだ。
水道で顔を洗う。
冷たい水が寝起きにはちょうど良い。
タオルで顔を拭いていると、隣に人の気配が。
こんな時間に?と思いつつも、運動部は大体朝練を行う。
他の人が起きていてもおかしくはないだろう。
「朝は早いのだな」
「…」
「なんだ?その顔は」
「おはようございます…東堂さん…」
まさか、東堂さんだとは思わずに思いっきり顔に出してしまった。
「いえ、東堂さん早起きなんですね」
「当たり前だ。美形を保つのに手間を惜しまないからな」
「…」
突っ込んでいいのかわからなかったけど、多分東堂さんはそういうキャラなんだろう…
無言の時が続いて、さすがに堪えきれなくなった俺は一足先に戻ることに。
「天津!」
けれど、東堂さんに呼び止められて振り返る。
「茶化すのは、無しだな……
……前に犯罪者などとお前を疑ってすまなかった」
真面目な顔をした東堂さんはぺこりと頭を下げた。
さすがに先輩である東堂さんにそんなことをさせてしまうのもよろしくないと思い、慌てて止めにはいる。
「これだけ、お前に言っておきたくてな…」
「東堂さん…」
「とんだお人よしだよな、湊も」
「…え」
「朝練には遅刻するなよ!」
それだけ言うと、東堂さんは颯爽とその場を立ち去ってしまった。
東堂さんは俺を名前で呼んで…?
…。
考えるだけ無駄なので、切り替える。
部屋に戻って、学校のジャージに着替えた。
素人たる俺はもちろんサイクルジャージなんてすぐに調達するわけもないので、上は指定ジャージ。
下はハーフパンツの体操着。
酷い格好だと真波君に笑われたものだ。
真波君。
急いで身支度を整えると、寮を飛び出した。
冷たい風が頬をなぞって通り過ぎる。
箱根の朝はこの季節でもほんのり肌寒い。
愛車のオルベアの前に立つ。
ちょっと汚れてしまったけど、俺を待ってましたと言わんばかりに一段と輝いて見えて。
乗りたい衝動に駆られるも、それを押し殺す。
右腕はまだ使えないのだから。
ではなぜこんな格好でいるのかというと。
寮の前の国道の道。
ここは、いつも。
「真波君!!!」
真波君の練習の道。
いつも俺を迎えに来てくれて、待っててくれる。
「湊君!!!」
無邪気な、その笑顔で。