青天の霹靂

□Ride.7
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「じゃあ、湊」




ぐいっと新開さんは俺の腕を引く。
戸惑う暇もないまま、部室へと踏み込んだ。


それはダメだと頭の中で警告する。



こんなぐしゃぐしゃな顔+修羅場に飛び込んで喜ぶほど馬鹿じゃない。
それでも新開さんは形振り構わない、といった形で進む。





「っ…!」





全ての視線がこちらに向けられるのが全身で伝わってくる。
思わず新開さんの後ろに隠れてしまう。






「新開…!」

「寿一、連れてきたよ」

「まっ、新開さんっ、俺っ…」

「いいから」





さらに腕を引かれて前に出てしまった。
力強い。しかしここでは褒め言葉ではない。





「天津」

「…」

「……お前は何を我慢していたんだ?」

「……」






それは、福富さんが俺自らすべてを告げろ、と言っているようで。
俺は深呼吸をしてから、心を落ち着かせる。




それから。





「……人は一度疑ったら、その過ちに気づかない」





拳を握りしめて、前へ進む。





「そして、人はとても弱い生き物です。福富さん」





だから、言えないことだってある。
どうしても逃げたくなったり





「…」

「でも、強くなることはできる」






さらに一歩進んで、床に座り込む藤本の前へ立つ。
隣には真波君がいて。





「"ざまぁみやがれ"」

「!!」





口端を釣り上げて、藤本に告げる。






「ハッ…!お前はそれで「本当はそうやってお前を馬鹿にしたかった」





けれど、すぐに口一文字引き締めた。
藤本は驚いた顔でこちらを見上げる。






「でも、もう充分だろ?」






それだけで。
福富さんの一言だけで。

お前は本気だった。
俺とお前は本気で勝負した。

そこまでは、どんなに嫌味を言われても、道の上での勝負だから。

それだけで済んだのに。



自ら墓穴を掘って。


でも、俺達は箱根学園自転車競技部。



敵同士なんかじゃない。






「…俺とお前は同じチームだろ?」




同じ、仲間だろ?



悲痛な声で、叫ぶかのように俺は告げた。







「……俺はお前に謝らない」

「…俺もお前を許したりしない」







藤本は、悔しそうに顔を歪めて部室を立ち去った。
誰が本当に悪いかなんて言えるのだろうか。
再び静まり返る部室。


俺は福富さんたちに向けて、頭を下げた。





「俺のせいでご迷惑をおかけしました」





ざわ、と騒がしくなる。
本当は俺が謝ることじゃない。
けどこれは俺が招いた事態。



この一言は言っておきたくて。
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