青天の霹靂

□Ride.5
2ページ/5ページ








疲れてた体なんて、知らない。





藤本を負かすためだけにペダルを回す。






「わお!はっやーい!」






後ろでケタケタと笑う声が聞こえる。
なんだなんだなんだアイツは!!!





「でもさ」

「!」




すぐに藤本が俺の前を走る。






「力みすぎだよ」

「くっそ!!!」

「おっそーい!おそいよオォ!!!」

「この野郎…!!!」

「素人が俺にかなうわけないでしょお?」

「いい加減にしやがれ…お前はなんで俺のことを知ってんだよ…」

「聞きたい?」

「っ!!?」





藤本の顔が一気に能面顔へと変貌した。
それに思わず鳥肌が立って。


前を走りながら首だけを後ろに向けてくる。
気持ち悪い…。


というかぶつかるぞ馬鹿…!


いやぶつかっちまえ…!!





「君の家さァ、大層な豪邸じゃん?
お父様が有名な社長だっけ?」

「それが何だってんだ!」

「でさァ、取引先の大手企業との社長との婚約ゥ?蹴ったんでしょ?」

「お前の両親社員だったか…!?」

「そのせいで会社は汚名を背負って大赤字。
くぅだらないことで会社倒産しかけてる最中でしょ?」

「…」

「俺の親父もそこに勤めてたんだわー!
なのにさぁ、倒産するから社員の首バッサリよ!
お前の家みたいに俺ん家、裕福じゃないんだわ。
わざわざ九州からこっちまで夜逃げしてさー。親父のいる箱根まで引っ越すハメになって…」





事実―――といえば悲しいが、これが現実。
だけど私の父親はそこまで馬鹿じゃない。
どんな手を使ったかは知らないが、会社を復興させる手筈だ。
だから藤本の言う通り"倒産しかけてる最中”なんだ。
とはいえ―――その相手の大手企業とは和解したわけだし、ある程度のコイツのねつ造も、社員の憎悪の思いが込められての話になってる。



だけど、切った社員はまた戻しているって聞いたけど…?





「俺の親父馬鹿でさァ、社長に喧嘩売ったわけ。
で、ヒンシュク買っちまって…あー馬鹿だわ…ホント」

「っ…!」

「だからさ、俺がプロのロードレーサになって金稼くしかないじゃん?」

「ンなの…俺に…」

「"関係がない"?バァカ!!!大ありなんだよ!!!」

「うっ!?」






藤本は急に後ろに下がってきて、俺の自転車に藤本の自転車をぶつけ始めた。
負けじと俺も押し返す。




「ぶっ潰す?それはこっちの台詞なんだよ!!!」

「藤本…」

「親父の仇?ウンウンかっこいい!
お前を徹底的につぶしてやるんだよオォ!!!」

「藤本っ」





暴言を捨て去り、藤本は駆け出す。
コンビニまでもう僅か。




底つきそうになる体力を振り絞ってペダルを回す。




こいつに負けたら―――



それだけはダメな気がして。






「っらあああああああああ!!!」






コンビニの手前。





「そんなの…そんなの俺に言うんじゃ、ねえよ!!!!」

「!!!?」






離れていた藤本と距離を詰める。




「みろよ!自転車競技部が勝負してるぜ!」

「なんだ1年か!?」

「タメじゃん!がんばれ〜〜〜!」




箱学生…?




それよりも、あと、少し、





「っだあああああああああ!!!」

「前にでてくんじゃねぇよ湊!!!!」





必死こいて、ペダル回して。











「―――」











気が付けばコンビニを通り過ぎていて、横目で





藤本をみたら、俺より少し後ろに下がってて。








勝った?






勝ったの、か?














「バァカ」







突如、後ろに重力。





何かに引っ張られて、視界が反転。








「え?」







ハンドルから手が離れて。

















―――落車?
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ