青天の霹靂

□Ride.5
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風は良好。
青空が漂うだけの、走るにはなんの弊害も無い。
走りやすい天気。






「―――っ!」





ただ、それがレースでなければの話だ。





「真波君っ…」

「あちゃー…さすが箱学の自転車競技部に入部するだけあるよね〜」






一人の、男が俺達を抜いていった。






「早いよ…!追いつけないっ…」






それに、俺の体力も―――



やっぱり一週間じゃ、無理か…。






「ねぇ湊君」

「!」





真波君に呼ばれて、前を向くと。
なぜか先頭を走っていた男がスピードを落として、俺の横まで来た。
何だこいつ…?





「よ、天津!」

「…知り合い?」





真波君は俺に聞いてくる。
けど、俺が知ってるわけもなく。
同じ1年といえど、俺は自転車競技部の連中から一歩置かれているようだからまともに話をしたことがない。
妬まれているのだ。先輩に声をかけてもらっていることが。




「誰…?」

「つれないなァ、天津君」

「いや、俺知らないし…」

「俺だよ!同じクラスの藤本圭介!」

「……」

「やだなァ、天津君。中学でも一緒だったじゃん?」

「…しらない」




知らない。
覚えてない、とかじゃなくて本当に知らない。
誰だこいつ…。
藤本圭介なんて知らない!





「やっだァ、本当に知らないのォ?」

「…」

「…っぶっへー!驚き!俺驚きだよ!!」

「…」

「家も近所だったよ?あんま変わんないねー!中学の時からのその性格の悪さ」

「…」

「何?だんまりィ?」

「…」

「…まっ、いいけど?君の家も没落しそーって時なのによくのんきにロードなんてやってられるよねェ!」

「…」

「真波真波!知ってるか!?コイツの家さ!!」

「黙れよ…」

「おっ!ようやく喋った…」

「黙れよ…!!!」







右腕に、力がこもる。
噛みしめた唇からは、血が毀れて。




我を忘れそうになってしまって。





「家が何?そんなのレース中どうでもいいでしょ。
全ては勝利がものをいうんだからさ」

「…!」

「…確かに。真波君の言うことに一理あり。
じゃあ勝負しようよ!天津君」





ハンドルを強く握りしめた。
俺はこいつのことを知らないけど、こいつは俺のことを知っている様子だけど…
ストーカーか何かで?近所?


わけがわからない。




「ここから箱根山の手前、コンビニまで。
直線。ねぇ、勝負しようよ!」

「勝負しようなんて言っても、俺たちは今勝負してんだろうが」

「いやいや〜それ言っちゃうぅ?
何、自信無いのォ?」

「…」

「えっ、図星!!?なんで、なんでレースに参加してんの!!?」

「…てめぇ!!!」

「湊君!」




真波君が一喝。
俺は、俺は、この込み上げた怒りのやり場が収まらない。




「勝負、しようよ」




にやりと口元を緩める藤本に、俺は声を荒げた。





「ぶっ潰す!!」

「オーケー!それじゃ、勝負だ!!」





後ろで真波君が何か言っていたけど、俺はそれどころじゃなかった。
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