上司も苦労します。
□第15話
1ページ/4ページ
何というか―――
時期を間違えてしまったようだ。
鬼灯様が完治してから二日後、即ち2月14日。
聖バレンタインデーの日にあたる。
何がいいたいのかと言うと。
「鬼灯様は!?」
「鬼灯様はどこ!?」
「私が渡すのよ!」
「鬼灯様ー!」
「私だけのチョコを受け取ってもらうんだから!」
閻魔殿は、女子の戦いの場となっていた。
因みに上記の台詞はこの、沈黙の閻魔殿の女子達を具現化したもので―――
さすがに騒げば仕事にも支障を来すし、鬼灯様は怒りきれないだろう。
だから彼女達はチャンスを狙ってる。
誰よりも先に鬼灯様にチョコを渡すために。
静かな戦いが繰り広げられていた。
「…まさに冷戦ね(CV:美輪明宏)」
「ジブリですか?私も好きですよ」
「ほっ…!?」
「静かに」
閻魔殿を影から覗いていた所、後ろから鬼灯様が現れた。
叫びそうになったが、鬼灯様の手によって口を塞がれた。
「今年はいつになく女子が燃えているな…」
「いっそのこと、私達の関係を公言してしまいましょうか」
「それは…」
マスコミやら猫又やらが集りに来るに決まってる。
言ったら言ったで、また別の問題が起きそうだ。
「ならば噂を流せばいい」
「噂?」
「人は根も歯もない噂をすぐに聞きつけます。
けれど完全には信用しない。それは所詮噂にすぎないのですから」
「なるほど…」
しかしどうやって?と首を傾げていると。
「夜な夜な私があなたを部屋に連れ込んでいるとか」
「売春みたい!!ってかさり気なく帯に手をかけるな!!!」
全力で阻止する。
「…そう言えば白澤さんとは大人しくしているのに私とする時は抵抗しますね」
「白澤も全力で嫌がってるわ。と言うかあいつはいつも不意討ちだからな」
「…」
「鬼灯様?」
「…不意討ちだから良いっていうんですか」
…あれ?
鬼灯様もしかして…
怒ってる?
「あなたをあいつの目にさらすこと事態私は耐えられません。
少し無防備すぎやしませんか?それとも私よりあんな男の方が―――」
「止めろっ!!!」
私の声は、大きく響き渡った。
ざわついていた場所も、一同がこちらをみて静まりかえった。
今がどんな状況だろうと私はなりふり構っていられない。
そんな状況だった。
「私は…どんなに腐っても気持ちが変わることはない…
鬼灯様だって、白澤の性格を知っているだろう?
けど、私は…私は…」
今までの行動を思い返せば、私に言う権利は無い。
殴ってでも白澤を止められただろう。
けど。
「私はなぁっ…」
「ちょ、夜鈴…!?」
「白澤が好きなわけないだろ!!
私が一番好きって初めて思えたのは紛れもなく鬼灯様だから!!!」
そこでハッと我に返る。
「夜鈴様が?」「鬼灯様を?」と、再びざわめきが広がる。
真っ赤になっていた顔は急激に真っ青になっていく。
「あ…わ…!!」
「あっけなくバレましたね」
「あああっ…!!」
あわあわとどうしたもんかと慌てていると。
ッカーン…
「…夜鈴ちゃ…ん…」
私の薬管を落とす。
新しい薬を薬管に合わせるため、白澤に預けていたんだ。
その薬管が落ちるということは。
「ぎゃああああ!!白澤!!!聞いていたのか!!?」
「そっか…うん…なんか、ごめん…」
「あああああ!!!色々最悪だアアア!!!」
「ざまぁ見なさい。綺麗に玉砕してくださって、実に見事でしたよ」
「黙れクソ鬼!!」
ああ…
もう灰になりたい…