上司も苦労します。

□第7話
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朝から、慌ただしい。



あっちこっち走り回って、ご飯を食べるのも忘れていた。
まぁ毘沙門天さんが仕事を溜め込むから悪いのだけど。



何よりも今日は現世に視察に行かなければならない。
その前にいくつか仕事を片付けないと後でもっと大変になる。




「夜鈴様、お時間です」

「あぁ、今行く」




一旦部屋に戻って着替えを済ませなければ。
小走りで部屋に向かう。
扉が見えてきたので、勢い良く開けた。




「あ、夜鈴さん」

「不法侵入!!!」




鬼灯様が当然の様に、そこに座っていた。
勿論第2の(勝手に作った)扉から出てきたんだろう。




「朝ご飯、食堂の方に言ってもらって作って貰いました」

「おにぎり!やった!ありがとう、鬼灯様」

「また暫くの視察ですか?」

「今回は一週間。漸く教師免許取れたから大学へ視察が出来る」

「成る程。教育実習生として行くんですか?」

「臨時講師だ」

「……かなり勉強頑張りましたか?」

「隈がもう作れないってくらいな!!ま、楽しいから良かったけど」

「狂気の沙汰ですよ」




どこの大学ですか?と鬼灯様が尋ねる。
だから得意気に答えて見せた。




「保科大学、獣医学だ」

「…それは」

「まぁ私も医者だからな。この手の学科なら容易い。
それに、鬼灯様は動物が好きだって言うからな。
知識を身に付けていても悪くはないだろう?」

「…」

「鬼灯様の“好きなもの”を知る、良い機会だし」

「夜鈴さん」

「ん?」

「それってどう言う事ですか?」




鬼灯様に言われてはっとした。
好きなものを知る良い機会、なんて…
裏を返せばあなたの事を知りたいって言ってるんじゃ…




「ち、違う!わ、私が言いたいのは…そのっ…」

「分かってますよ。夜鈴さんは本当に面白いですね」

「か、からかうのは止めてくれ…」

「保科大学ですか…」




鬼灯様は暫く考えるような仕草をしていたが、私は時間が無い事を思い出した。
ちゃんと擬態薬を鞄に突っ込んで、服をまとめた。





「じゃあ、行って来る」

「いってらっしゃい」




まるで夫婦みたいだな、なんて。



口が裂けても言えない。





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