上司も苦労します。

□第6話
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―――地獄に医者がいるのも、おかしな話だと思うだろうか。


しかし、これがまた鬼も病には適わないことも然り。
犬は予防接種を打つのも。
閻魔様の健康診断も。
やはり医者が必要になるのだろう。


地獄には医者が少ない。
常に人不足に苛まれるも、今まで何とかやってきた。
それは鬼灯様の助力があってこその成果だが―――



つまり何が言いたいかと言うと、私もそれなりに出来る鬼で、鬼灯様と同じようにトップに立っている。


自慢、に聞こえるかもしれないが、
鬼インフルエンザの抗体を作ったのも私だし、主治医を努めているのも私。
身を粉にして働いている。


だから―――




「…」

「何か言うことは?」

「………ごめんなさい」

「毘沙門天さん!!これがごめんで済むなら警察はいらないだろう!!!」




―――だから、私の上司が酷い失態を犯すのは理不尽ではないか?




「…今日からきちんとした仕事につくはずだったんだが」

「いや、本当反省してるよ!」

「…あァ?」

「ひいっ!!夜鈴ちゃんがただのヤンキーに!!!」

「私が出張行っている間にあなたは仕事丸投げで、バカンスに浸ってただと…?」




この前帰ってきたらしっかりチェックしとけば良かった。
そうしたら今よりかはマシだったかもしれない。
…いや、変わらないかもしれない。




「だ、だって…」

「だってもクソもない!!他の鬼に任せて…もしものことがあったらどうするんだ!」

「……ごめんなさい」

「この前、私に衆合地獄に行かせたのも、これを知られたくなかったからだろ!?
隠す暇があったら、どうせバレるんだから、遊びに行かせないで片付けさせろ!」

「…ごもっともです」

「だったら―――!
げほっ…げほっ…ごほっ!」

「夜鈴ちゃん!?」




思わずよろけてしまい、口を手で覆う。




「だ、いじょうぶ…ってか毘沙門天さんがもっとしっかり…っ!!」

「あああ、夜鈴ちゃん!!薬、薬は?」

「ごほっ…うぇっ」

「気分は?薬管どこ?」

「ふ、懐…に、」




いつもと違う。
咳がすぐに治まらない。
柱に手をついて懐に手を伸ばすも―――


カラン、と音を立てて薬管が床に落ちる。
毘沙門天さんが慌てて椅子から立ち上がって取ろうとするが。




「夜鈴さん」




ふわっ、と鬼灯様が私を抱き抱え、薬管を拾い上げた。




「グッジョブ……鬼灯様…」

「瀕死ですかあなたは」



ビッ!、親指を鬼灯様に向けた。
薬管を受け取り、なんとか咥える。




「……は、あ」

「騒がしいと思って来てみれば…」

「助かった…」

「本当に医者ですか。医者の方が病弱でどうするんですか?」

「うっ…否定はしない。
……鬼灯様、もう大丈夫だ。離してくれ」

「…」

「鬼灯様」

「あぁ、はい」




自分で体勢を立て直す。




「全く…」

「毘沙門天さんが悪いんだ。」

「それは私も同感です」




何て言うか、ストレスが爆発した、見たいな。






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