上司も苦労します。

□第5話
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悶々としたまま、翌日を迎えた。



変に考え事をしていたせいか、寝覚めが悪い。
頭が痛いし…メンタル的に最悪の状況だな。
こういう時は何もしないのがベストだけど、私とて皆の上司。
仕事を休むわけにはいかない。




「……白澤に会いに行こう」









***






フラフラと重い足取りで、


『うさぎ漢方 極楽満月』
‐準備中‐


と書かれた札を横目に、扉を開けた。




「…あ、まだ準備中ですよ」




中には桃太郎と白澤がいたが…




「夜鈴さん!?どうしましたか?」

「薬を貰いにな…そこで寝てる馬鹿はまた酒に溺れたのか」




私よりも(色んな意味で)重症な白澤が机に突っ伏していた。
桃太郎は心底呆れた様子で、




「えぇ…しかも朝帰りですよ」

「…女の子が、だろ?」

「…良く分かってますね」



この人は学習しませんね、とため息をついた。




「頭痛薬一つ…」

「あ、はい。ちょっと白澤様!起きて下さい!」

「うぅん…何桃タロー君…」

「夜鈴さんが来てますよ!」

「……夜鈴ちゃん!?」




ガバッと勢い良く体を起こした。
相当酷い顔をしている。


こんな奴、現世だったらやっていけないぞ…。




「夜鈴ちゃん、いらっしゃい!!」

「…」




さっきとは打って変わってケロッとしてる。
何だコイツの変貌ぶりは。
恐るべし神様。




「……全く、お前は気楽でいいよな」

「どうしたの?悩み事?」

「悩み事、ね…」




色々思うところはあるけど、何か白澤の顔を見ていたらどうでも良くなってきた。
これでは悩んでいるこっちがアホらしくなってくる。



「まぁいいや。ついでに薬の補充していくか」

「夜鈴ちゃん」

「ん?」

「…………好きな人、いるでしょ」

「んなっ!!!!?」




ニヤニヤと、笑いながら白澤は立ち上がった。
棚に手を伸ばして、いくつかの漢方薬を選ぶ。




「だって…女の子の悩み事っていったらそれくらいでしょ?」

「なんだ…当てずっぽうか…」

「いいや。悔しいことだけど、夜鈴ちゃんは間違いなく恋してる」

「馬鹿言え…その本人が気付いてないんだぞ」

「ふーん」




いつまでも腑抜け面をさらしながら、白澤は続けた。
まるで、私の心を読み取るように。




「(その前にこいつ神獣だったか…)」

「だって、夜鈴ちゃんが今体調崩してるのも、恋に悩んでいるからでしょ?」

「第一、どこにそんな根拠が…」

「いつもの夜鈴ちゃんだったら、笑い飛ばして終わる話じゃん」




ぎくり。
悪いことをしているわけでもないのに、意中を見透かされたような感覚になる。
罪悪感にも似た、この感情は何だろうか。




「誰かを好きになるなんて悪いことじゃない。
どんな恋をしようと、そんなのはその人次第」

「正論だが、お前が言うなよ」

「夜鈴ちゃんは、誰かを好きになるのを悪いことだと考えてる。
だから、本当の気持ちを心の奥に閉じ込めてる」




漢方薬をテーブルの上に並べる。
にっこりと微笑んで、白澤は自分の胸を人差し指で叩く。




「本当は知ってるんじゃないかな?」











“まるで、私は鬼灯様のことが好き見たいじゃないか”








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