黒の祓魔師

□第2話
1ページ/4ページ






「夏休みまでそろそろ一ヵ月半切りましたが、夏休み前には今年度の“候補生”認定試験があります。
候補生に上がるとより、専門的な実践訓練が待っている為、試験はそう容易くはありません」

「エスクワイヤ?」

「エクスワイヤ、だよ」

「エクスワイヤ?」




燐の言い間違いを訂正させている女の子―――杜山しえみ。
結局あの後はサクに話しかけることは出来なかったが、お互いの自己紹介だけはできた。




「…候補生かぁ」





少し、悩んだ表情で雪男の話を聞く。




「本業は…“危険因子の抹消“だなんて、口が裂けても雪男には伝えられないよ」



はぁ、と。
重いため息をついた。
建前として『悪魔の落胤である奥村燐を監視・危険性がある場合の束縛』
要は奥村燐の暴走を止める立場となっているが。
実際は悪魔の落胤がこれからのサク達に有害な行為を行わせないために、存在を抹消せよ。


そう、伝えられていたのだ。


でも。
こうして逢ってしまえば。




『……変な情も程ほどにしとけよ。いつも後悔するのはお前なんだから』




ぼそぼそと話すが、いつになくピコは膨れっ面だった。
多分、その原因はピン止めにあると思うのだが。



『…外していいですか、コレ』

「人の感謝を仇で返すつもりか?いいじゃん桜色の、綺麗なヘアピン。いーなー…可愛い。俺も欲しいな…」



寂しく笑うサクを見て、ピコは頬杖を付きながらサクの頭をなでた。



好きで男装しているわけじゃない。
これも、仕方の無いこと。
サクはピコを見てから、再び雪のほうを向いた。




「…そこで、来週から一週間試験の為の強化合宿を行います」





雪男はプリントを配りながら続けた。




「合宿参加するかしないかと…取得希望“称号”をこの用紙に記入して、月曜までに提出してください…」

「マイスター?称号って…」

「え?」




燐はしえみの方を見たが、ハッとしてその言葉を飲み込んだ。




「やっぱいいや」




燐は席を立つと、勝呂達の元へ行った。
サクも席を立ち、勝手に勝呂の隣に座る。




「「称号って何?」」

「はぁ!?」

「教えてくれ…オネガイシマス」

「右に同じ」

「そんなんも知らんで祓魔師になるいうてんのか!たいがいにしいや!!つか、勝手に隣座るなや!」

「はは…奥村君と黒葛君てほんと何にも知らんよなぁ」

「な、何だよ…サクだって…知らねぇじゃんかよ。世の中にはそんな人もいるんだよ…」

「無知をバカにしたら天から罰が下るぞ」

「罰って何やねん!つか、それは自業自得やろ!!」

「称号っていうのは…」

「子猫丸!!教えんでええし!」

「「子猫丸!!?」」




意外な名前に、サクと燐は同時に声を出した。
ピコは机の上で爆睡中。




「祓魔師に必要な技術の資格の事で…騎士・竜騎士・手騎士・詠唱騎士・医工騎士の五種類あるんです。
どれか1つでも“称号”を取得すれば祓魔師になれるんですよ。称号によって戦い方、全然ちごぉてくるんですよ」

「なんとなく解った!ありがとな、こねこまる」

「ありがとー!猫」

「お前は何とるの?」

「何シレッと馴染んどるんやオイ!」

「僕と志摩さんは“詠唱騎士”目指すんやよ。詠唱騎士いうのは聖書や経典やらを唱えて戦う照合」

「坊は詠唱騎士と竜騎士二つも取るて、またきばって張るけどなーー」

「へーさすが坊!」

「頭良いんだ、坊!!」

「勝呂や!なん気安く坊いうてん!許さへんぞ!!」

「あはは!坊面白い!!!俺個人的に好きだぜー!」

「なっ…///!!そないな事、男に言われても全然嬉しか無いで!!」

「でも顔真っ赤ー!」





本当は女なのに、とうとうとしながらピコは呟いた。
寝ながらも会話はちゃんと聞いていた。



「そーいや…奥村先生も医工騎士と竜騎士2つ取ってはるよ?」

「ふーん…あいつスゲーな」

「あ、勝呂。ドラグーンて何?」

「あーもう!!難儀な奴やなぁ!!竜騎士は銃火器で戦う称号!騎士は刀剣で戦う称号…」

「!剣!?…じゃあ俺は騎士だな!」

「…俺も騎士だ」

「なんやかんや面倒見ええやからなぁ坊はー」

「やかましい!!」

「そーいやいっつも剣差げてはるね。サクは?剣言うても…」

「ああ、普段は杖で……ちゃんとあるよ。あ、でも鎌って剣の部類かな?」

「鎌ぁ?草刈するときの?」

「そうだよ燐」

「入るやろ。つーか鎌で戦うなんて…」




心なしか、勝呂の肩が震えていた。
草刈の鎌と死神の鎌はどのみち形状は似てるし、まぁいいかと思ったのだが。




「別にいいじゃん!笑うことないだろ!!!俺、それでスッゲー強いから!!!」

「なら、今度の強化合宿のときに見せてみぃ!!」

「よし来た!!!」

「ピコは称号書かんでエエの?寝てるけど」

「あ、うん。あいつには必要ないから」

「え?」





あいつが鎌だ。なんて今は言えないだろう。
直、解ることだろし。とサクは思った。






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ