黒の祓魔師

□第1話
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「…遅刻です」

「あはっ☆」

「何ですかその眩い笑顔は」

「すんません!メフィストさん!!ピコがあんなゲス野郎ン所行きたくねぇ。行くんだったら自殺する・って言うもんで」

「だからソレ…いつになくボロボロなんですね?」

「正解です」



サクはピンクで覆われた理事長室に立っていた。
手には長い杖を持っている。しかし、薄汚れている。




「まぁ…次に遅刻した時はサクさんを犯すので承知してください。ピコさん」

『…し・ね』

「あらあら。いつの間に憑依なされてたんですか?全然気がつかな―――」




ヒュッ!!




「おやおや…随分の嫌われようで」

『黙れ』




サクの姿は青年へと変わっていた。
持っていた杖は今やメフィストの顔面スレスレに突きつけられている。




『そもそもなんで死神(オレタチ)が正十字学園(ココ)に呼ばれなくてはいけないのか、理解できない』

「そんな事私に言われても」

「ピコ、あんまり怒ると周りの人の魂、もぎ取っちゃうから」



シュンッと音を立ててサクの姿へと戻る。二人の違いは特に無いのだが。
ピコは特殊であり、悪魔人間関係なく憑依することが出来る。
メフィストは苦笑いで続けた。




「…そんな葡萄狩り見たいに言わないでくださいよ……プチッて取れちゃったら困ります」

「ああ、大丈夫ですよ。取れたら戻せばいいし(笑)」

「薄゚せるんですか!?」

「ええ。一時的に仮死状態になるだけで…戻そうと思えば、ですが」

「まぁ…意外な一面もあるんですね」

『「うぜぇ」』

「ピコさん。サクさんの声を使って出てこないで下さい。ややこしいです」

『「もうお前死ねばいいと思うよ。俺がその首掻っ切ってやろうか?」』

「遠慮します」




サク(ピコ)は杖を床に音を立てて、鳴らした。
すぐに星の描かれた円が足元に広がる。




『「消えな」』

「…厄介ですね。全く」

「阿呆!!」

「!!?」




今にもメフィストに襲い掛かろうとしたサク(ピコ)は自分で持っていた杖を、自分の顔面にぶつけた。
いくら憑依しているからと言っても、そのダメージはもちろん自分にも来るのである。




「…いたた……すいませんね、理事長」

「それ、痛いですよね?」

「痛くない。痛くないと思えば痛くない」




そう言いつつも、左手で顔面を覆う。
痛いだろう。





「あ・そうそう。君に伝えておくことがありました」

「何スか」

「君も我が正十字学園の塾に通ってもらいます」

「……父さんからは正十字学園に行くだけでいいって聞いて、祓魔師(エクソシスト)になれ・とは聞いてないんですけど」

「あなたには重要な役目がある」

「…役目?」

「ええ。元々あなたは死神なんですからそれなりに力も備わっているし、上級エクソシストより遥かに強い」

「だから?」

「……魂の管理者として、とある者の管理を頼みたい」




サクは露骨に嫌そうに顔を顰(シカ)めた。




「嫌ですか?」

「別に嫌じゃないですけど仕方ないです。ピコが嫌見たいなんで顔がこうなっちゃうんです。続けてください」

「そのピコさんですが、今回あまりサクさんに憑依しないで頂きたい」

「『どうしろっつーんだよ』」

「あなたなら、実体化・出来ますよね?」

「『…まず、理由を聞かせろ』」

「悪魔は人の心情に漬け込む。あなた方が一緒にいればもしもの時、二人諸共悪魔の物です」

「『俺ら、死神だぜ?』」

「“もしも”のお話です」



ヴヴン…



サクの持っていた杖は残像となり、それからピコの姿へと変わって行った。
同じ人(?)が二人いる。眼帯や着ている物は異なるが、殆ど同じだ。




『…なんか変だな』

「あはは!ピコ、久しぶりに実態を見た〜!」

「和むのは良いんですけど、本題を忘れないで下さい」




サクは見事にメフィストを無視。
ピコに頭をスパン、と叩かれてようやく前を向いた。




「そのとある者は、我が生徒・奥村燐。と言う子です」




その言葉を聞いてサクはへぇ、とただ一言。
逆にメフィストが拍子抜けしてしまった。もっと驚くかと思ったのに。




「生徒を監視する事に驚かないんですか?」

「いやいや、これでも重々驚いてるよ。うん。先生の誰かかと思ったんだけど、生徒か」

「…拍子抜けです。まぁ、その子にはまだ秘密があって―――」




キーンコーンカーンコーン…



メフィストの言葉を遮るようにして、チャイムがなる。





「遅刻するから授業が始まっちゃうじゃないですか。とりあえず、鍵は―――」

「“鍵”なら持ってますよ」




サクはニコッと笑って、赤く不気味に淀んだ色をしている鍵を出して見せた。




「それなら、結構です」




そのまま鍵を理事長室の鍵穴に差し込んで、回す。
二人は塾へと導かれた扉をくぐって、その場を去っていった。









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