ダイビング!

□vol.17
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(side 由紀)





オールマイトを筆頭にしてプロヒーロー達が現れた。
私と爆轟君が呆然としている中、敵が簡単に倒されていく。
熟練のプロヒーローもいれば、最近若手のヒーローの姿も見れた。
これで助かると安堵したのもつかの間、死柄木が急に激昂したかと思えば、泥のような中から脳無が現れた。

…感じていた悪寒はこれだったか?

脳無は暴れ始めると、事態は一転した。
下にも応援は来ているようで、そこからも悲鳴が聞こえる。
どうやら脳無はここだけじゃないらしい。各場所で出現したみたいだった…!!



「ごぽっ…!?」

「爆豪少年!!柳崎少女!!」

「んだこれっ…体が…」

「うっ…」




口から同じような液体があふれ出し、私と爆豪君を飲み込んだ。
オールマイトの叫び声が頭の片隅で余韻を残していた。
一つ一つの事柄が急激に回りすぎて、事態が頭に追いついていない。
口の中の異物を吐き出して、ようやく私達は外にいるのだと気づいた。
周囲を見渡すと、町は瓦礫と化し、目の前にいる人物が明らかに異色の雰囲気を放っていた。




「悪いね、爆豪君、柳崎さん」

「あ!?」




その後に、私たちの背後に死柄木が同じように液体の中から飛び出してきた。
全員、あの場から…!?オールマイトをすり抜けてここまで逃れてきたということは…。
この、目の前にいる男。オールマイト並…いや、もしかしたらそれ以上の力を持っているかもしれない…?





「また失敗したね、弔」




それから男は淡々と死柄木に告げてから、再び私達の方に視線を戻した。
いや、顔は奇妙な面をつけているから視線も何もわからないのだけれども。
恐らく先ほどの先生、というのはこの男の事なんだろう。



「柳崎さん、特に君の力は我々に必要だ」

「…」

「考えたことないかい?"どうしてみんな私より弱いんだろう"って」

「!」

「それは君が特別だからさ」

「そんな事…思ったことない!!」

「そんなはずないよ。僕にだってわかるよ、君の気持ち。
特別な力を持ってるってことは、そのほかの人間たちよりも優れていると言う事だ。
君は人の上に立てれる人間なんだ。ねぇ、爆豪君なら分かってくれるよね?」

「うるせぇ!!知ったことか!!」





口では否定するも、この男の言い分が胸に刺さるものがあった。
心の奥底で燻ってる何かが、蠢く。それが酷く不快だった。
まるで、男の言葉を肯定しているかのようで。




「!」




だが、男はそこで口を紡ぐとふと上を見上げた。
そこには、オールマイトの姿があった。




「全て返してもらうぞ!!オール・フォー・ワン!!」

「また僕を殺すのかい。オールマイト」




オールマイトの振り上げたこぶしを、容易く男は受け止めた。
そのことだけで驚きだというのに、男はさらに腕を膨らませたかと思えばそれをオールマイトに食らわせた。
爆音と共にオールマイトは何百メートルも吹っ飛ばされ、家屋もろとも崩れ落ちる。
その圧倒的な強さに、思わず爆豪君はオールマイトの身を案じた。
が、オールマイトだって伊達に平和の象徴と言われていたわけではない。
素早く戻ってくると、再び男に攻撃を食らわせる。



「強すぎる…!」



死柄木達は呆然と戦いを眺めているわけではなかった。
離脱の準備を進めるとともに、私達も連れて行こうとする。
だが、ようやく外へ出ることが出来たんだ。
私は爆豪の腕をつかむなり、個性を発動させる。




「なにすんだテメッ…!!」

「逃げるよ!!暴れないで!」





翼を広げ、空に逃げる。
しかし。




「逃がさないよ」





ドッ…




「っ、柳崎!!!!」





男は爪先を伸ばしたかと思えば、それを使って私の足首と竜の翼を突き刺した。
宙ぶらりんで串刺し状態。
両羽と両足だから、まるでそれは磔の刑に処されているのと似ていた。
竜の鱗を貫くほどの鋭利な何か。私はそれが何かと分析するよりも早く、空中から地面に落下した。




「痛…うっ…!!!」

「おい、柳崎っ…血が…おい、大丈夫か!!」



竜化を解くと、翼の傷は背中に移行する。
ダメだ、足首を貫かれた。歩くこともままならない。
羽もダメ。足もダメ。これじゃあ逃げる道が…!!




「人質はね、殺さない程度に身動きを封じなきゃだめだよ。いいね?」

「柳崎少女!!」

「よそ見はダメじゃないか」

「ぐう!!?」




私を救けようとしたオールマイトは男に吹っ飛ばされる。
痛みでどうにかなってしまいそうだった。
それを必死に堪えて、脂汗が滲む掌を強く握りしめて、腕を使って体を起こす。
間違いなく私と爆豪君がオールマイトの足手まといになってる。
どうにかして、この状況を抜け出さないと…!
ちらりと足に目をやれば、血が広がっていく。
苦痛に顔を歪めながら、手を竜化させて服の裾を破いた。
それを爆豪君に手渡す。



「ごめ…ん。強く縛って。止血…しないと…」

「っ、歯ァ食いしばれよ…!!」

「うああっ!?」



布切れを受け取った爆豪君は躊躇わずにその布を足首に巻き付けた。
かなり強い力で、痛みのあまり思わず声が漏れる。




「我慢しろ!!死にたくねぇだろうが!!」

「…っ、分かってる…!ありが、と…」




爆豪君は私に手を差し出すと、苦笑いでそれを取った。
彼なりの気遣いだろう。
ああ、頭がガンガンする。目の前も、チカチカと。
さて、この最悪な状況からどうしようか―――
そう思った次の瞬間。




「来いッッ!!!」



上から、聞き覚えのある声が聞こえた。
私達は上を見上げると、その声の主は切島君で。
瞬時に私は爆豪君の手から体に自身の腕を回した。
言葉を交わさずとも、私達が今すべきことが同時に脳裏に浮かんで。
爆豪君は私を抱えたまま、両手で地面に向かって爆破させ、飛んだ。
その要領で空中でも何度か爆破させて―――切島君の腕を取った。



その際ちらりと私は下を見やれば、誰かが叫んでいる声が耳に届いた。
誰かはわからない。分からないけども雑音と共に紛れた微かな声は確かに「海に行け」と言っていた。




「バカかよ」

「ありがと…!!」



とにかく私と、爆豪君は切島君達の救出によって―――


この場を、離脱した。






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