泡沫の夢
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白煙漂う中、瓦礫の山を大きな四肢で駆ける。
背中には数人の怪我人。
朝、通学途中にスマホが鳴ったかと思えば、エンデヴァーさんからの呼び出し。
立てこもり事件で、犯人は人質とその周辺に油をまいたとのこと。
その電話を受けて、
あっれ〜?私災害救助犬だよなぁ〜?
あっれぇ〜?私戦闘要員になってない?
とかそんな疑問が湧き出てきたのだが、エンデヴァーさんの鶴の一声ですぐさまジャケットを羽織って現場に向かったのが数時間前の出来事。
そして現在救助活動を行っている最中だった。
「げぇっ…吐きそう…」
うぷっと口元を押さえたが、無理。
背中に乗ってる人をとりあえず避難地まで運び、私はそのまま人目の付かない木陰で今朝の朝食をリバース。
ヴィランも人質も全員無事だが、ヴィランが油に炎を付けてしまったので事態はより一層面倒なことになってしまっていたのだ。
おこだよ!フェンリルおこだよ!!!
「気持ち悪……」
「…フェンリルさん!大丈夫ですか!?」
と、心配そうに声をかけてきたのは新人ヒーロー君。
今回が初陣だったらしいが、とんださいなんに恵まれたね。
なんて皮肉を零す余裕はあまりなかった。
「大丈夫です…なんか今日…めっちゃ調子悪いだけです…」
ずるり、とその場に伏せる。
あ、人型に戻りそうかも―――
このヒーロー確か新人だったっけ…やばいかも……
「だ、大丈夫じゃないじゃないですか!救護班呼んで―――」
「触るな!!!!!」
と、エンデヴァーさんがすんごい怒った顔でこちらに近づいてきた。
その顔が久しぶりに怖かったので思わず吐き気もどっかいった。
やば。久しぶりにエンデヴァーさん怖いって思った。
「お前は持ち場に戻れ!」
「は、ハイッ!!!」
新人君はエンデヴァーさんの鬼の形相から逃げるようにして持ち場へ戻った。
あーこれは日頃の体調管理が不十分だったなー絶対怒られるなーと覚悟しつつ人型に戻る。
「ご、ごめんなさ「悪かった」
エンデヴァーさんはそういうと、私を抱え上げた。
「…はは、エンデヴァーさんが謝るだなんて気持ち悪すぎですよ」
「…」
「あれ?怒りましたか?」
「…黙って休んでろ」
私のいつもの軽口にも突っかかってこない。
それどころか私の体調を気遣ってくれてる?
明日嵐でも来るの?
「エンデヴァーさん労働基準局からついにお叱りを貰ったんですよ!」
「それに大分反省しているようで!フェンリルが最近調子悪いの知ってたからな!」
エンデヴァーさんの事務所の中のサイドキックのうち―――
かなり肝が据わってる二人がひょっこりと現れた。
私の正体を知ってる数少ない人物だ。
「うーん、でも私が調子悪くなるのっていつも嫌な前触れというか…」
「…場所は」
エンデヴァーさんもそのことについては知っていた。
体調を本気で心配してくれてる面もあるんだろうけれど。
私の個性のある≪特性≫の方を気にかけてるのだろう。
それこそただの第六感の話になるのだけど。
いつも私が体調を崩すとき、それは大きな事件が起こる前触れを示す。
まるで巨大な地震の前触れを示すかのようで―――
…。
さて。
話を戻すけれど、気持ち悪い原因は"匂い"にある。
一等匂いが強くなる場所が。
「…ここからもう少し下の方…横浜辺りです」
「分かった。厳重に警戒に当たる」
勿論全部が全部、当たるわけではない。
外れたこともあったし、何もなかったこともある。
でも、今回は特に―――
―――嫌な、予感がした。
野生の勘、という奴だろうか。
05 私の正義
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