ダイビング!

□vol.10
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***






「…」




思わず、保健室の扉を開けるのを躊躇ってしまった。



「…っ」



でも、私は決心して、保健室の扉を開けた。




「!!」

「やぁ、心操君」




にこやかに、出来るだけ笑顔になるように、私は心がけた。
中では心操君がリカバリーガールに治療してもらっていた。




「…怪我、大丈夫?」

「……」




心操君は一瞬私を見た後、悲し気に顔を逸らした。
それが、ズキンと、心に響く。




「包帯を変えるのを忘れないないでね。それじゃあ…職員室にいってるからね。何かあったら呼ぶんだよ」

「ありがとうございます、リカバリーガール」




リカバリーガールは空気を呼んでくれたのか、席を外してくれた。
私は、空きベッドに腰かける。




「…」

「…」

「靴がね、またダメになっちゃったんだ」

「…」

「…」

「買った奴も結局あのどたばたでどっかいっちゃったし」

「…」

「…新しいのをか「お前はなんでそんなヘラヘラしてるんだ?」…」




心操君は、こちらを見ずに、床を見ながら言った。



「…俺自身の為に、お前を犯人に差し出したんだぞ!?
俺はお前を見殺しにしようとしたんだぞ!!
なんで、なんでお前は俺を責めねぇんだよ!!!!」

「…」



私はベッドから立ち上がって、丸椅子に座ってる心操君の前に膝をついた。
それから心操君の目を見上げた。


大人が小さい子にするように。
私は彼の両手を優しくとった。



「最後に、犯人の一人が私達を襲おうとしてたよね。
その時私の頭ん中真っ白になっちゃって、犯人を殺そうって思っちゃったんだ」



でも、私を止めてくれた人がいた。



「心操君、あの時後ろ、引っ張ってくれたよね。
あの時心操君が止めてくれなかったら…私は今頃ここには居られなかった。
……心操君、ありがとう」

「っ…!!馬鹿、お前…っ…!!!」

「言いたいこと、いっぱいあるよね」

「由紀っ…!!こっち見んな…!!!」




私はぎゅっと、握っていた手に力を込めた。




「なんでもいいよ、言って?」

「っ…俺だって怖かったんだよ…なんで俺が巻き込まれなきゃいけねぇのかわかんねぇよ…
でもなんでお前はそんなに平気なんだよ…なんで立ち向かえるんだよ…
俺だってヒーローになりてぇのに…どうして俺はお前に敵わねぇんだよ…!!」

「私も、怖い」

「いつもお前に守られてばっかじゃねぇか俺は…」

「…守りたいから、守るんだよ」

「…由紀」

「うん」

「由紀、由紀」

「うん」

「由紀」

「なぁに?」

「…っ、…ごめん」




心操君は一瞬何かを言おうとするのを躊躇ってから、私に謝った。



「…私も、ごめんね」



恐らく、心操君のお母さんを人質にしたのは私が一番仲良くしている人物の関係者だからだ。
だから心操君が狙われた。だから心操君が駒にされた。
私はそれに最後まで気づけなかったし、私のせいで周囲の人に迷惑が掛かってる。
…そんな自分が一番情けない。



「心操君、今週の土曜日、暇かな」

「…暇だよ」

「お買い物に、行こうよ。ほら、私また靴買わなきゃ」

「……今度は、クレープも食いに行くか」




心操君は目を擦って、それから今度は笑っていた。





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