ダイビング!

□vol.10
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「失礼しました」




相澤先生と共に、校長室を後にした。
今度は相澤先生についてこいと言われた。




「柳崎は人を殺したいって思って、それで、どうしたい?」

「どうしたいって…殺したいわけないじゃないですか」

「でも思ってるんだろ。お前の本心は」

「…」

「見えねぇ何かに怯えながら個性と向き合っても、なるようなモンも何にもならねぇ。
ちゃんと自分と向き合え」

「…向き合ってた、つもりなんですけどねぇ」

「つもり、だろ。そんなの」

「先生には、敵わないや」




あはは、と力なく笑った。
その後沈黙が続いたので、私は切り出した。




「何も考えずに、人を殺すって発想が出るのはさすがに参りますよ。
欲求を満たすのと一緒。食欲睡眠…息を吸って吐き出すのと同じです。
それがさも当然かのように現れちゃうんですから、私は…自分が怖いですよ、先生」

「怖いからって、逃げ出すのか」

「…」

「ずっとお前は怯えたまま生きていくのか」

「…」

「お前は」




相澤先生はぴたりと、歩みを止めた。
それからその目で私を捕らえる。






「ヒーローになるんじゃねぇのか」







真っ直ぐな、先生の目に。
私は胸を鷲掴みにされた。


どくん、どくん。



心臓の音がうるさいくらいに脈を打つ。




「……わたし、は…」




入学してから今までの事が、走馬灯のように脳裏をよぎった。



個性がコントロール出来ずに、普通科に落とされた。
それでも敵襲撃事件では私は逃げずに立ち向かえていた。
あの時は何も考えずにがむしゃらに戦ってた。


体育祭。心操君と共に、上位を目指した。
最終的には個性の暴走。自分に踏ん切りがつかなかった。
そして、コントロールの為に相澤先生に補習授業をしてもらうようになった。

思えば入学式からいろんなことが起きすぎていた。





ここは雄英高校。
ヒーローを目指す若者たちが集う学び舎。


そこに私はいるのだ。
ならば答えはただ一つ。
何度もその答えは出してきていたと言うのに、どこか曖昧だったような気がした。






「相澤先生のような、ヒーローになる」






"なりたい"、は。ただの夢。

私は夢で終わらせたくないから。

誓うように。祈るように。
言葉で自信を縛り付けるように。



真っ正面から、先生に向かって宣言した。




それを聞いた相澤先生は一瞬驚いて、それから短く「そうか」と呟いた。






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