ダイビング!

□vol.10
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***




三日後、私は病院を退院した。
テレビや新聞を見ても、私の事は記事にはなっていなかった。
既に新しいニュースに市民は食いついている。
あの事件は「そんなのもあったね」程度で既に人々から忘れ去られていた。
現に、新聞の一面を飾るのは「ヒーロー殺しの逮捕」についてだった。
私は朝見た新聞を思い出しながら、学校に登校した。



向かうべき先は、教室ではなく。



"校長室"





コンコン



「…失礼します」

「やぁ、大変だったね!」



校長先生が、紅茶を飲みながらソファに座っていた。
私も校長先生の向かいに腰かける。
退院前に担任から登校初日には校長室に向かうようにと言われていた。



「君の個性、だいぶじゃじゃ馬みたいだね」

「…私は、ヒーローにふさわしくない行動をとりました」




俯いて、ぎゅっと手を握りしめた。
心苦しくて。情けなくて。
顔を上げられなかった。




「頭に血が上って相手を…相手に、…殺意を抱いてしまいました。
これは勿論許されざれるべきことではありません。
……私は、退学でしょうか」

「そんなわけないじゃん!!」




HAHAHA!と校長先生は愉快に笑った。
それに拍子抜けしてしまい、私は思わず唖然としてしまった。



「この間も君の全力見させてもらったけど、確かに危険を伴う可能性がある」

「…」

「でもそれは個性をコントロールしていなかった場合の話だろう?」

「…そうです」

「じゃあコントロールできるようになればいいじゃん!」



あっけらかんと校長先生は言って見せた。
私は言葉が見つからなかった。
校長先生の言っている意味が、よく、分からない。

いや、難しいことは何も言っていないんだ。
寧ろ簡単なことしか言っていない。




「え?だって君個性コントロールする気ないの?」

「い、いや、そんなわけじゃ…」

「コントロールするために補習やってるんだもんね。
だって君が個性を扱えるようになったらとっても頼もしいと思わないかい?
災害救助…君の個性はヒーローにもってこいのものじゃないか」

「!!」



校長先生はにこやかに告げた。
私は思わず、ばっと、顔を上げる。




「どうして君はそんなに悪にこだわるの?関係ないと思うけどなぁ。
そんなマイナス思考になっちゃうのって、君自身の中に不安があるからでしょ?
"もしも相手を怪我させてしまったら""もしも個性が暴走したら"
そんなビクビクしながらやってたってコントロール出来るものも出来ないよ
自分で自分にセーブかけてたらいつまでたっても上達するわけがない」




校長先生の言う通りだった。
この人はなんでもお見通しなのだろうか。




「でも雄英としてもだらだら補習をやらせるわけにはいかないよ。条件がある」

「条件、とは…」




校長先生が指をピンッと立てた。
一体その条件とはなんだろう…とごくりと生唾を飲み込んで校長先生を見た。
だが、次の瞬間。




「夏休みの1ヵ月でコントロール出来なきゃ退学だ」

「ひゃあああっ!!!?」




いきなり後ろから頭を鷲掴みにされたので、ビクッと体を震わせた。
思わず悲鳴が出てしまうほど。

誰かと思えば、相澤先生だった。
この人は…いつのまに校長室に入ってきたのだろうか…驚いた…
めちゃくちゃ心臓がばくばくしてる…びっくりした…




「あ、相澤先生…」

「お前に1日たりとも休ませる暇はねぇ。
お前が個性をコントロールできるようにならなければ、俺はお前をこの学校から追い出す」

「…」

「俺のクラスが林間合宿をやることになってる。そこにお前もついてこい」

「!…林間合宿ですか!?」



ヒーロー科と一緒に?
私は思わず胸が高鳴った。



「そこなら個性の使用が可能だ。それにお前がどれだけ暴れても問題はねぇからな」

「…そ、そうなんですね」

「あ?問題でもあんのか」

「…違うんです」



私は、今まで通りの相澤先生に、思わず安堵してしまった。
怒られるんじゃないかって、




「今すぐにでも、退学になるかと思いました」




2度と、ヒーローを目指せられなくなるんじゃないかって。

不安だった。心配だった。


…怖かった。



この間の事件から、私はどんどん自分に自信が無くなって、常に張り続けていた一定の境界線に踏み込んでしまって。
やってはいけないことを犯してしまったと。
自分を責め続けていた。
だから、校長先生に呼ばれたときは、もう私は雄英を追い出されるのかと思っていた。

でも先生たちは誰も諦めていない。
私を"指導"してくれる。私の個性をなんとかしようとしてくれている。
誰にも見限られていなかった。





「…ありがとうございます」





誰も、私を"悪"だと追求しなかった。





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