青天の霹靂
□Ride.6
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「福チャン、今日は外での練習のはずだろ?なんで急に…」
「真波だ」
「ア?」
「真波が、そう言ったんだ」
「あの不思議チャンがァ!!?なんで!!?」
「探り合いはもう、沢山だと。」
「…どういう意味だヨ、それ」
「黙ってみていろ」
部室では、それぞれが集められて。
いつもの練習開始時刻はとっくに過ぎているというのに、いつまでも動かない福富。
さすがにいつもと違うその様子に荒北をはじめとした、メンバーが気づき始めた。
「福富さん、俺のわがまま聞いてくれてありがとうございます」
「…」
「今日はですね、ちょっと俺の話を聞いてほしくて」
「なんでテメーの話に付き合わなきゃいけねェんだヨ!!!」
「荒北」
「福チャ…」
「真波、続けろ」
真波はにっこりと笑って、ありがとうございます、と一言。
それから一拍おいて、話し始めた。
「俺、箱学に入学して一番初めに出来た友達がいました。
彼、とっても恥ずかしがり屋さんで、でもすごく友達思いのいい子なんですよ〜」
「…荒北、落ち着け」
「なンも言ってねェよ!!」
「顔が歪んでいるのだよ」
東堂が一言。
荒北は何も言えなくなり、黙り込む。
「…でも、いつも本音を隠して遠ざけて。
同じ部活に入ろうって誘ったのに、何かあったみたいで中々入らなかったんですけど、でも結果的に一緒に入部できました。
それから、俺はいつも彼の練習に付き合って、この前のレースも何とか出来ないかなぁって思ってたんです」
真波はちょっと困ったように笑った。
部員の視線は真波へ。
一体何を話そうというのか。そういった興味を向けていた。
「きっと彼はスプリンターだ。
そう思ってあの日先頭を走らせた。
………それが、いけなかったんですね」
あの日。
あのレース。
誰もが鮮明に覚えてる、事件。
「誰にでも弱い心はある。そこに付け込んだ人がいました。
彼のすべてを踏みにじって、自分を悲劇の主人公に仕立て上げ、挙句の果てにこの自転車競技部から湊君を追い出そうとしている。
……そうでしょ?藤本圭介君」
一瞬にしてその場がわざついた。
真波から、視線は藤本へと注がれる。
「俺が、何したっていうんだ?真波」
「湊君が君のジャージを引っ張ったんじゃなくて、本当は君が湊君のジャージを引っ張って落車させた。違う?」
「……違うね。俺は確かに天津にジャージを引っ張られて落車した。ケガもしてる。
それにそもそもなんで君は俺を疑う?おかしくないか?」
「…」
「真波は一番天津と仲が良かった。
だから復讐じゃないのか?そんな"ホラ"を吹聴して、後々君のここでの立場が無くなるだけだよ?」
「…」
「図星かァ?お前から仕掛けておいてだんまりかよ。
俺はあるがままの真実を告げただけ…それを受け入れることができない真波…
まるで俺が悪者みたいに扱う、こいつの脳内ヤバイんじゃないのか!!?」
そうだろ、みんな!
藤本がそういえば、周囲の人間も口々に真波を否定し始める。
根本的に悪いのは「天津」それで固まっているのだ。
誰も疑わずに、否。
この場合は疑わないのが定石だろう。
「っていうか証拠はどこに?そもそも目撃者がいるでしょー」
「違う」
「!」
「目撃者は最初から君に仕込まれたグルだよ」
フッと真波の顔から笑顔が消えた。
「―――!」
「…あのレースに向けて、事前に予測して。
たまたま俺たちが先頭を走っていたから余計に都合がよかった」
「…何言ってんだよ。デタラメ言うな」
「彼らに聞いたら"藤本が仕組んだ"って言ってた」
「…!っ、あいつら―――!!何バラして――!!?」
真波は口端を釣り上げて、告げた。
「おかしいな。
俺はレースのこと質問したんだけど、彼ら何も言ってないよ?」
今度は、藤本から表情が消えた。
「君の言う通り、俺はずっと"ホラ"を吹聴していただけさ」
立場が無くなったのは、どっちかな?