黒の祓魔師

□第7話
3ページ/3ページ






「燐!!!」





サクは燃える炎を身体に纏わりつかせたまま、燐に抱きついた。
一瞬身体を強張らせるのがわかったが、それでもサクは燐を放さない。





「大丈夫。俺は、味方だから」





この炎は燐を燃やさないよ、と優しい声で耳打ちした。



とくん、とくん。



聞こえる、燐の鼓動。
暖かい温もりを感じながら、サクは鎌を手放す。





『これは、マズイな』





ピコはいつもの姿に半分、戻った。
左半身は鎌の状態である意味滑稽だった。
瓦礫が振り落ちる中、3人はサクの作り出した黒い球体の中にいた。
落ちるものは全て、飲み込まれていく。
先ほどのアマイモンと戦ったのとは別のようだった。





「んん、でもそろそろ時間だ」

「時間?時間ってなんだよ」




燐はどこか焦っているような口調で言った。






「遊戯は、終わりってコト」






つい、とサクは上を見上げる。
そこはアマイモンが観覧車の上を登っていき、その姿が消えるのを確認できた。





「ほら、揺れも収まってきたみたいだし」





アマイモンの気配が消えた、とピコは呟く。
サクは少しため息をついてから、立ち上がった。





「もう、大丈夫だよ」

「…サク」




燐は不安な表情から、安堵の笑みを零した。
ホッとしたような、そんな表情に。
よほど怖かったのか…それとも。





「なぁ、サクのそれって…俺を弾き飛ばすんじゃなかったのかよ?」

「大丈夫、この炎は俺の意識で敵味方を区別できるから、大丈夫。炎にも色々種類があるんだよ?燐も参考にしたら?」

「お、おう!!あ、ありがとう…それから」






燐は少し目線を下げた。






「サクは…強いんだな」

「…え」

「俺と違って、強いし…アイツを追い払うことが出来た。でも俺は昔みたいに…意識が飛んで…剣を簡単に奪われて…」

「…」

「これじゃあ、全然駄目なんだ…ッ」





サクは少し微笑んで、燐の頭を撫でた。






「"焦らないで、まだ時間はあるのよ。意思は行動に反映するわ。だから、ゆっくり歩めばいいのよ"」





女性らしい、やわらかな声で囁く。





「"たとえ、その道が真っ黒で何も見えなくても、貴方が光をつくればいいの"」

「…」

「…って、昔母さんが言ってた。だからな、燐。お前はこれから頑張って、足掻いて、そして強くなれ!」

「サク…」

『組み手ぐらいなら、相手してやるぞ』

「ピコは本当に強いからなー」





ニコニコと、笑う。
その笑みに燐は何故か心温まる気がした。






「燐っ!!!サクっ!!!」

「兄さん、一体何があった…」






雪男たちが駆けつけたとき。
スッと燐の目の前に剣が差し出される。
二人の人間が、現われたのだ。
そして、サクの前にも同じように絆創膏が差し出された。





「遅ぇぞ雪男。まぁ、こっちは手ぇだせずにいたけどな」



いや、出したら逆に巻き込まれるな―――と、笑う山田君の姿。
サクに絆創膏を差し出す全身黒いコートの人物。
顔はフードを被っていてわからない。
だけど。




「まぁ、いい加減この格好も飽きた頃だったしな」




グイッと服を脱ぎ捨てる山田。
それが合図だというように、隣の人物もフードを取った。





「あたしは上一級祓魔師の霧隠シュラだ」

「同じく上一級祓魔師のハイネ・O・E…」





一人はやけに胸がでかい女と。
もう一人は、群青色の髪をしていて、缶バッチが2つついた猫耳の帽子を被っていた。
なぜか泣きそうな顔で。
『死神』と言う名目上、正十字騎士団とは長い付き合いだ。
大体の祓魔師は覚えているはずだが…。
“ハイネ・O・E”なんて聞いたことないなぁ、と呑気にサクは思っていた。




「日本支部の危険因子を調査するために来た、正十字騎士団ヴァチカン本部から派遣された―――」

「上級監察官ですよ…」





と、ハイネはシュラの言葉を続けた。
突然上級祓魔師と言われても呆気に取られるだけで。
しかしサクとしては疑問に思うだけだった。
上級祓魔師が何をしにきたのか。
当然、周りの塾生も同じだった。






「…ハイネ・O・E?」






サクは少し目を細めた。
あれ?どっかで聞いたことあるようなないような。
でも聞いたことないような。





「…サクさん。あなたの噂は常々お聞きします…」

「そりゃどーもです」





ハイネがスッと手を差し出してきた。
それに対して、サクは笑顔で返す。
同じように手を握った途端。




バチッ…





「!?」

「…静電気、ですかね」





パッとハイネは手を離した。
いや、今のは静電気なんかじゃない―――
サクはじっとハイネを見つめていた。








第7話・死神と











(敵か味方か)
(判断しかねる)

前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ