じゃがー
□海
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『おおー。いい眺めだなぁ。ピヨ彦』
『…』
ザザン…と、心地よい潮騒が塩っぽい風にのって運ばれてくる。
僕だって、白い砂浜、真っ青な海ー…と自然を堪能したいところだけれど。
『…真っ暗じゃん』
マンションを出た時既に、日が落ちかけていたのだ。
此方に着く頃には太陽は水平線の下に、その姿を沈めきっていた。
『なぁーに言ってんだ。夜は夜で、海は違う顔を見せるんだぞ』
立ち入り禁止と書かれた看板をまるで無視して、ジャガーさんは高く積み上げられたテトラポッドによじ登って行った。
一番上にまで辿り着くと、僕に向かってその手を差し出してくる。
『ほら』
『あ、ありがとう』
青春ドラマみたいだな、なんて思いながら、僕はジャガーさんに引き上げられた。
昔、僕も小さいころ自分の身長よりも幾分か高いところに秘密基地みたいなものを作って、遊んでたっけ。
『うわっ…』
不安定な足場で思わずバランスを崩すと、抱きかかえられる様にジャガーさんに手を引かれる。
『ーっ…びっくりした』
『大丈夫か?』
ヘッドホンの音よりも近い位に、ジャガーさんの声が響いた。
いつも聞いているそれより、大人びて聞こえるのはどうしてだろう。
こくこくと頷くと、安堵した様に掴まれた腕の力は弱まった。
バクバクと拍動音が煩い。
『な、眺め、いいね』
『だろ?』
自分の中の気まずさを振り切るために、話題を振ってみた。
けれど、会話はそれ以上拡がることは無く、その沈黙に波音が差し込んでくる。
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