じゃがー

□秋の扇
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秋の扇
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夏が終わりかけ、秋の到来を吸い込む空気の冷たさに感じ始める。
日が落ちるのも早くなり、いつもの学校帰りの道が薄暗くジャガーさんと僕の影
がぼんやりと闇に同化している。
  
『ピヨ彦、イケナイ事したくない?』
 
そして唐突に、ジャガーさんは僕を悪事に誘った。
 
『…え?』
『したいだろ?』
『うー…ん、何するの?悪いことなら…』 
『こっち!』
   
躊躇する僕の手を取り、何処かへと走り始める。
何でこう人の話聞かないのかな、ジャガーさんらしいけどさ。


  
『ほら、着いたぞ』
『ここ、小学校じゃない…』
 
連れて来られた其処は、近くの小学校だった。
とっくに下校時間を過ぎた校舎には生徒どころか教師すら居ないのだろう、見る
限り明かりは一つ残らず消えていた。
 
『それで、何するつもりなの?』
『ん?プール入る』
『………帰ろう』
『何で?楽しそうだろ?』
 
楽しそうに弾むジャガーさんの声は、僕の気分までも掬い上げるみたいで。
僕はジャガーさんの手を振り払うことが出来なかった。 
 


『よっし、いっせーの、せっ!だぞ?』
『え、な、なにが?』

プールサイドで、屈伸を始めるジャガーさん。
回答を貰える暇もないまま、強く背中を押され、プールの中へと飛び込んだ。
一瞬で冷たい水が服をすり抜け、肌を濡らす。
一拍おいて、ジャガーさんが飛び込んで立てた水音が耳に届いた。

『ぷは…っ、いきなり酷いよ、ジャガーさんっ』
『はは、…うぉっ、冷たいな』
『だってもう秋だよ…』

水はまだ循環させてるらしく、綺麗な水面が月を写し揺らめいている。
静まり返った宵の校内に微かな水の音だけが広がっていて、何だか異世界に来て
しまったかのような錯覚を抱いた。

忍び込んだ他に誰も居ないプール。
“イケナイ事”っていうのは、不思議と人をわくわくさせる。

『季節外れのものって、なんか良いだろ』
『そうかなぁ…ことわざにも“役に立たない”ってあるじゃん』
『誰からも必要とされなくなったからこそ、だよ』

ジャガーさんは意味深長に微笑した。
それはジャガーさんの優しさにあたる物なのかな。

ああ、ジャガーさんが沢山の人から好かれる理由が今更少しわかったかも。

『なぁ、こうしてみると、空すげー綺麗』

ジャガーさんにつられて、背を水に預け、背泳ぎの様な格好で空を仰ぎ見た。
黒の中に浮かぶ丸い黄色が、鮮やかだった。

『一曲、つくれそうだね』
『お、いいな、それ』




帰り道、水を多分に含んだ服から落ちる水滴が僕らの跡を残していく。

寒いから、なんてカップルの言い訳みたいな事を言って、僕等は手を繋いでみた


触れた手が、異様な程熱かった。


end

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