じゃがー

□第三者の芝居
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ただの尊敬心から来る子供じみた独占欲だと、言い聞かせていたのに

『先生を、他の誰にも渡したくないんです』
 
言った瞬間何かが覚醒して、そして、僕はー…



−−−―−−
第三者の芝居
−−−−−−



規定の授業時間が終わり、皆ばらばらに教室を後にしていく。
僕が眺めていた次の演奏会で弾く曲の楽譜を片付けていると、ピヨ彦さんが背後から声を掛けて来た。

『それ、演奏会の曲?』
『はい、来週なんでそろそろ仕上げておかないといけないんです』
『うわぁ…音符がいっぱいだ…』

ピヨ彦さんは笑って、頑張ってね、と僕の肩に軽く手を置いた。
お礼を言っている間もずっと、僕の胸の底に鬱積した何かは静まることはない。

『…あ、ジャガーさんまだ寝てる』
『先生はお疲れなんですね』
『うーん、夜中に変な編み物なんかしてるからじゃないかな?どうしよう…』
『どうかしたんですか?』

悩んだように唸るピヨ彦さんに訊けば、直ぐにバイトに行かなければならないと言うことらしい。
疲れてる先生を起こすのも気が引ける様だ。

『じゃあ、僕まだ残ってるつもりだったので、起きたらピヨ彦さんは帰ったとお伝えしましょうか?』
『あ、ありがとう!じゃあ、お願いね』

本当に時間が無かったらしい。ピヨ彦さんは、言うなり早足で教室を後にした。
挨拶に振っていた手を下ろすと、薄い溜息が漏れた。

もともと賑わっていた訳ではない教室に、更なる静寂が下りてくる。
先生の寝息が聞こえるほどの、静けさ。

数十秒間程、先生の寝顔をぼんやりと眺めていた。
綺麗で特徴的な顔立ち、人目を引く奇抜な個性、そしてその卓越した音楽の才能。
人間として、師匠として、惹かれるものは、挙げれば幾らでもある。


―…でも、違うんだ。


理由付けられた感情では、ない。

『先生』
『………』

反応は無い。平素の僕なら、睡眠中の先生を私事で起こすような事はしないだろう。
机に突っ伏している先生の身体を掴み、やや乱暴に揺らす。

どうしてこんなことをしているのか、自分でも理解できなかった。



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