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□友情と敬愛
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試合を終えてスリザリンの談話室へ戻って来たアビーといつものメンバーたち。
重苦しい空気に、言葉を発することができる者はいなかった。
焦ったアビーは明るい声を出して手をワタワタさせた。
「皆そんなに暗くならないでよ!アダムまで黙りこくらないで、なんだか怖いから!
せっかくホグワーツは満点で1位だったのよ?
もっと喜んでよ」
「・・・アビー、貴女殺されかけたのよ?」
メーデンが窘めるように言うと、アビーは片眉を上げて困ったような表情をする。
「でもだからって課題が終わる度に葬式みたいな出迎えされちゃたまらないわ」
「アビー、怖くないの?」
そう問うのはローズ。
シルツやヴリトーニやハーバーの惨事を直接見てはいないが、アビーは何が起こったかを知っていた。
採点の時に詳しく説明を受けたからである。
ちなみにヒッポグリフに襲われたダームストラングのハーバーは、あれから3時間後に静かに息を引き取ったらしい。
ゴブレットに顔を焼かれたトランセルは聖マンゴに入院することに。
あと2回の課題を残して、すでに死者は4人。
残った選手は6人まで減ってしまった。
「怖くないって言ったら嘘になるけど。
でもこれが課題なんだもの、メソメソしたって何にもならないわ。
そうでしょう?」
そう話を振られたアダムは「そうだな」と一言だけで返事をする。
「ほら、皆盛り上がって!マルフォイもジェームズもバカみたいに落ち込まないで!
もうすぐクリスマス・パーティーよ!
ね!?
パートナーはもう決まったの?」
無理やり話の話題を変えたアビーに、皆もやっと重い口を開き始めた。
翌朝。
今回日刊預言者新聞を見て怒るのはアビーではなくメーデンだった。
「なんじゃこりゃーー!!」
「メーデン、落ち着いて。
キャラ崩れてるわよ」
一方アビーは冷静にメーデンを宥める。
大広間で新聞を破れるほど強く握りしめたメーデンはテーブルに突っ伏し、それから全く動かなくなってしまった。
コソコソと噂が囁かれ、ヒステリックになった女性たちがメーデンを睨む。
全ての元凶は今日のある記事にあった。
「メーデン、リータ・スキータの記事だし嘘だって僕も分かってるから。
アダムとメーデンが熱愛だなんて・・・・ねぇ?」
肩をポンッと叩いて慰めるジェームズ。
そう、書かれていた記事はアダムとメーデンにまつわることで、なんと2人は熱愛中であると報道されたのだった。
今頃アダムのファンたちがせっせとメーデンへ送る呪いの手紙を作っていることだろう。
「まぁいいじゃないか」と楽観的なのはマルフォイだ。
「記事にはホグワーツ一の美女だと書いてあるぞ。よかったな、リドル」
「嬉しくないわ!」
拳をテーブルに叩きつけ、ドンッ!という音と共に食器たちが震えた。
メーデンの目は据わっている。
「リータ・スキータって女、いつか潰してやるっ!
なんでよりにもよってアダムなワケ!?」
「話題性があるからじゃないかな。
ほら、アダムって代表でもあるし」
「だからってこの書き方ってないわ!
まるで両想いみたいじゃない!
相変わらず死者出たことも書いてないし、なんなのよリータ・スキータ!!」
ドンドンと机を叩く度に皿から料理がこぼれ落ちる。
しかし今のメーデンにそれを注意できる者は一人もいなかった。
「メーデン」
噂をすればなんとやら。
アダムが颯爽と現れて、生徒たちが「イヤー」と悲鳴を上げる。
「ちょっと来い」
「嫌よ嫌よ。
なんで誤解されるような真似・・・!」
アダムは否応が無しにメーデンの首の根っこを掴み、そのまま引きずって大広間から去って行った。
キャーとかイヤーとか泣き叫ぶような声が上がったが、どう見ても恋人に対する扱いではない。
アビーは真っ赤な唇を三日月の形にしてジェームズを肘で突く。
「残念だったわね、メーデンと噂になるのがジェームズじゃなくって。
少し心配なんじゃない?
アダム格好良いし、完璧人間だし」
「まさか、どちらかと言うとメーデンはアダムを毛嫌いしてる節があるから、むしろ安心してるよ」
「・・・確かにそうだけど」
彼氏なんだからもう少し怒ればいいのにと、アビーはパンを齧りながらクシャクシャになった新聞をテーブルに広げた。