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□ヒーローと落ちこぼれ
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談話室で薬草学のロングボトムから出された課題(メーデン専用)を勧めていると、トントンと軽く肩を叩かれて振り返った。
「失礼。君がメーデン・リドルだね?」
「げっ」
アダム・クラークだ。
あまり愛想はよくないが、金髪青瞳のどこからどうみても文句のない美形。
無表情だと清廉で研ぎ澄まされた雰囲気があるが、不意に笑むと色気がある。
思わず嫌な顔をしてカエルが潰れたような声を出したメーデンに、怪訝な表情の彼が首を傾げた。
「げ?」
「いえ、なんでもありません。ところで何の御用ですか?」
「ああ、実は俺がリドルの教育係を任されたんだ」
「えー・・・・」と、メーデンは控えめに嫌そうな声を出す。
「だから会う日程を決めておこうと思って」
本当に心の底から嫌だったがそれを堂々と顔に出すのも失礼かと思いなおしたメーデン。
ぺこりと頭を下げて愛想笑いを浮かべる。
「はい、よろしくお願いしますクラーク先輩。メーデンと呼んでください」
「よろしく、メーデン。俺もアダムでいい。そんなに畏まらなくていいから」
彼はそう言ってメーデンの隣のソファに座った。
なんだなんだと周りの生徒から視線を集めている2人は完全に注目の的となっている。
「俺はクイディッチの練習があるから平日は木曜しか空いてないんだけど、メーデンは大丈夫か?」
「ええ、木曜日は午前中だけなので」
「じゃあ木曜日と、試験も間に合わないようだったら日曜日も使おうか」
「わかったわ」
「次の木曜日の午後に談話室で」
じゃあ、と挨拶するとアダムは風のように去っていった。
とたんに部屋から戻って来たアビーが文字通りメーデンに飛びかかる。
「メーデーン!」
「うっ、何よっ」
アビーの顔は驚愕に染まっていた。
ちょっと怖い。
「何事よ何事よ!アダム・クラークに話しかけられるなんて!」
「大げさよアビー」
確かにスリザリンでは英雄的な扱いをされているが、彼もただの人。
会うこともあれば話しかけられることもあるだろう。
寮が違うならともかく、メーデン達は彼と同じスリザリンなのだから。
「ただ勉強を見てもらえることになっただけだから」
「「「えええええ!!!」」」
何故かアビーだけでなく談話室中の生徒が驚きの声を上げた。
どうやら盗み聞きしていたらしい。
「言っておくけれど、あたしの意思じゃないからね。ついでに彼の意思でもないから。
マクゴナガル校長に強制的に決められたのよ」
なーんだ、と誰も彼もが話を聞くのをやめてそれぞれの作業に戻って行った。
破滅的だと有名なメーデンの成績なら十分にあり得ることだと。
アビーは気まずそうな表情でメーデンの顔色を伺う。
「でもあんた大丈夫?確実にファンたちにどつかれるわよ」
「どつくって・・・」
ははは、とメーデンは力なく笑ったがそれが一番の悩みの種。
アダムは顔がいい。
しかも優秀だった。
その才能はホグワーツ始まって以来の天才だと言われるほど。
それだけでなく性格も悪くないのだ。
気さくな裏表のない態度でスリザリンらしさを隠そうともしない彼はグリフィンドールとも距離を置こうとしない。
それはグリフィンドールのジェームズ・ポッターが親友ということでよくわかる。
そしてなによりスリザリンの暗黒時代とも言われる10年間を終わらせたのが彼だ。
ヴォルデモートが葬られ死喰い人が次々と捕えられていった16年前、死喰い人を多く排出したスリザリンはその後大変肩身の狭い思いをしていた。
それがスリザリンの暗黒時代。
しかしアダム・クラークという、飛びぬけて優秀な生徒が現れたことでスリザリンに自信と誇りを取り戻すきっかけが訪れた。
これは自らの血を尊ぶスリザリン生にとってはとても重要なことだ。
以上からもわかるように、アダムには狂信的な信者(ファン)が多い。
「リンチ受けたりして」
「・・・あり得る。あんまり関わりたくないなぁ」
「でもマクゴナガルの言いつけなら、あんたの壊滅的な成績に同情してもらえるんじゃない?」
「そうねぇ」
同情を誘って許してもらう、それしか方法はないかもしれない。
はぁ、とメーデンは今日一番の大きなため息を吐いた。