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□春。桜。
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キラキラと眩しい日差しの下。薄紅色の花びらが音もなく舞散っている。
ひらり、ひらひら。ひとひらの花びらが、ふわりと手に持ったプラカップの中に落ちた。透明なカップに透明な酒、その上にひとひらの薄紅色。
酒の味はいまいちだが、こうやって花びらを浮かべればなかなか風流で美味く感じるかもしれない。そう思って、ゾロはカップに口をつけた。
「あ。」
小さい声とともに、すっと手が伸びてゾロの頭に触れた。
「これ。ついてたから。」
そう差し出された手のひらには、ひとひらの花びら。
「おう、さんきゅ。」
どういたしまして、と微笑んだのはたしぎだった。

新入部員の歓迎会も兼ねた大学の剣道部恒例の花見会。
青いビニールシートの上で、他の皆はだいぶ盛り上がっている。
まだ酒の飲めない未成年もノリのいい連中が多いようだ。

「お、どこ行くんだよ、ロロノア〜。」
ちょっと出来上がり気味のやつが、立ち上がったゾロの腰に腕を回してきた。
「便所。」
そう答えて絡みつく腕を軽くいなす。なんだよー、冷たいなぁ〜と文句を言うのを無視して、ゾロはその場を離れた。

公園の端っこにあるトイレから出てきたゾロ。いつものことではあるが、剣道部が花見をしている場所になかなか辿りつけない。

あっちもこっちも同じ様なビニールシート敷いてやがってわかりゃしねぇ。そんなことを呟きながら、園内を歩いていると。
一段と賑やかな声の上がっているグループがあった。何気に目をやる。
見覚えのある黄色い頭が見えた。
そう言えば、あいつも今日花見とか言ってたっけ。同じ公園なのか。まぁ、ここらへんで花見って言えば、ここしかないしな。と、ゾロは思い出した。
桜の幹越し。歩きながらそのグループを眺める。
女子が多いようだ。桜の薄紅色よりもっとカラフルな色が溢れている。甲高い笑い声のその中で。低目の張りのある声が何か言うと、またきゃわきゃわと笑い声が上がる。
目尻、下がりっぱなし。いつものことだ。鼻の下も伸びてる。あいつは女好きだもんな…。
横目に見ながらそう思う。あーあ、あんなにだらしない顔しやがって。
ゾロの目から見てもかわいい女子があいつの肩に垂れかかって、楽しそうに笑っている。
それ以上見る気になれなくて、思わず桜を見上げた。
ひらひら、ひらひら。音もなく花びらが舞い落ちてくる。

「ロロノア君。」
そう呼ばれて振り返る。たしぎがすぐそばにいた。こんなそばに来るまで気がつかなかったなんて、と、内心舌打ち。
すうっと手が伸ばされる。しなやかな腕が目の前を横切って髪に触れる。
「また、ついてますよ。ほら。」
さっきと同じように、たしぎの手のひらには桜の花びらがのっていた。
「桜に好かれてるみたい。」
そう笑いかけられた。
なんと返事をしていいかわからず、ゾロは唸るように、ああとかそうとか言う音で答えた。
「こんなに桜がきれいだと、あっちこっち見たくなっちゃいますよね。えーっと、あ、あっちですね、私達の場所は。」
たしぎが指差した方へと、二人は歩き出した。


部屋のカギは開いていた。中に入る。明かりはついていない。が、気配でわかる。
「おい。」
いきなり耳元で声がした。後ろから伸びてきた腕が羽交い絞めにするようにゾロを抱き締める。
「お前、もてるじゃん。…妬ける。」
低めの甘い声。吐息混じりの。
「見てたぜ。…メガネの子、かわいいじゃねーか。」
ゾロのピアスを揺らして舌の先が耳たぶを舐める。背中に感じる鼓動が速い。ゆっくり首をめぐらせると。舌先が口の端を擽るように舐め、そのまま唇をなぞる。薄く口を開くとするりと入り込んでくる。
そのまま二人、もつれ合うようにベッドへ倒れこんだ。

快感に追い立てられ意識が飛ぶ寸前。
「俺のことも…妬いた?」
頼りなく縋るようにあいつが聞いた。
ばーか。そんなわけねーだろ…強がって答えようとしたのに、ゾロの口から零れたのは甘い喘ぎだけだった。



→→→おしまい

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