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□大切なのはタイミング
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珍しく静かで穏やかな宵だった。
騒がしい夕食も終わり、後片付けも終わらせて、サンジは甲板へ出た。
緩い風が頬を撫でる。
ふと見ると、船尾に近い方にゾロがいる。船べりの手摺にもたれ、ぼんやり空を見上げている。
鍛錬もせず、そんな所に居るなんて更に珍しい。サンジはゆっくり近付いた。
内心、野生動物を驚かせないように用心してるみたいだとおかしくなる。

たっぷり一人分以上は離れて、手摺に腕を掛ける。海を見る仕草で話しかける。
「こんな時間に、珍しいじゃねーか。」
ゾロは視線をよこしただけ。
「鍛錬、しねーのかよ。」
続けて聞くと。
「昨夜みっちりやりすぎたから、今日は休みだ。」ぼそっと答えた。
「そっかー。たまには休むのもいいんじゃねー。」
そう言いながら、いつものように胸ポケットから煙草を出し、一本銜え火をつける。
次の言葉を探しながら、ゆっくり吸いゆっくり煙を吐き出す。
「なぁ、たまには一緒に…」
そう言いかけた時。
視界にするっと腕が伸びてきて、案外しなやかな指が銜えた煙草を奪い取った。

???
その指は、その煙草を、唇へと運んだ。
ピンク色の唇。少し開いて煙草を銜える。すうっと音がするほど吸いこんで、ふうっとまた音がするほど吐き出す。
げほげほ、げほ! 
「だ、大丈夫か、ゾロ!」
サンジは慌てた。こいつは何をした?目で見たものの意味がよくわからない。

ひとしきり咳き込んだ後、ゾロはブスくれた顔で煙草をさし出した。
「やっぱ、こんなもん、吸うやつの気が、しれねー。」
そのまま煙草をサンジの唇に押しつける。サンジは無意識に銜える。
「返す。いらねー。」
そう言うゾロの目尻に滲んだ涙に見とれ、唇から煙草が落ちそうになり更に動揺する。前歯でぐっと煙草を噛み締める。
「お、お、おめー、今…」
上手く言葉が出てこない。
涙に気がついたゾロは更にブスくれた顔で、目をごしごしと擦る。
サンジは何をどう言っていいのか分からず、ぼおっとゾロを見つめた。
その視線に、ゾロが顔をサンジに向けた。
目尻が赤くなっている。そして擦っていない頬も、耳たぶもほんのり桜色だ。
ぽとり。銜えた煙草から灰が落ちた。

イマナラ、キス、デキル。

サンジは煙草を指で挟んで持ち、ゆっくりゾロとの間をつめた。
ゾロは逃げなかった。

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