心の在処
□緑青の忍
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「卿がいかに優秀な忍かを、見せてもらおう」
久秀がそう言い、刀を構える前に忍が動く。
その動きたるや、疾風の如く。
忍はダッと久秀の方へ走り間合いを詰めたが、寸前で真横に飛び、方向転換する。
先程まで忍の居た場所に久秀の一閃が放たれていた。
「ふむ…目は、いいようだな」
感心しているとは、程遠い口調で久秀は言った。
横飛びすると同時に忍が放った苦無を、下ろした刀で振り払う。
その一瞬出来た隙を忍は見逃さず、再び間合いを詰めようとする。
だが、それも束の間。
久秀の振り払った刀の先から焔が意思を持ったように地面を這う。
忍は間一髪のところで焔を避けたかのように思えた。
だが焔は地を這うだけに留まらず
その場でゴゥッと炎上したのだ。
「ぐぁっ…!!」
炎上した焔の一部が忍の左半身に直撃する。
堪らず忍は声をあげて膝をついた。
焔に焼かれた半身は相当な痛みを伴う筈だが、それでも忍は退かなかった。
(闇の世界の人間、か…)
生きるも死ぬも、それが己に与えられた使命であれば迷うことなく実践する。
例え、それが自身の命であったとしても。
そのような立場にある人間は皆、同じような瞳をしている。
目の前の忍のように、何も写さない虚ろな瞳。
久秀は、先程思い付いた考えは間違いだったと思った。
この男も、心を持たない、主の命に忠実なただの忍だったのだと。
「残念だ」
さほど、残念とは思っていない、寧ろ興味すらないといった
抑揚のない声で呟く。
久秀はゆっくり、忍の方へと歩いていく。