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□僕のサンタクロース
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12月24日。
「君は知っているか?この時期になると表れるプレゼントを置いてく“サンタ”という存在を。どうやら今夜に出没するらしいが、俺は生憎見たことがない。」
いきなり何を言い始めるかと思いきや、クリスマスについて話し始めたようだ。
アレルヤもサンタクロースについてならなんとなく知っている。
イエス・キリストの誕生日に子供の部屋にプレゼントを置いていく、心優しい白髭を蓄えたおじいさんが居るという逸話。
どこかには、悪い子供には動物の死骸等をプレゼントするサンタも居るようだが、それは伏せておこう。
「サンタは知ってるよ。っていうか、ティエリアはサンタに会いたいんだ?」
ティエリアにもサンタを信じるというこんな可愛い所があったとは…、いや、元々可愛いんだけどね!と、アレルヤは嬉しくなる。
「あぁ、是非ともボランティアで世界中の子供にプレゼントを直々に持っていくヤツの面を拝んでみたい」
「そう…」
想像と現実の差に嫌気が差した。
アレルヤは己の想像力の豊かさを恨んだ。
だが、ティエリアはサンタが実在する人物ではないことを知らない。それを知ることが出来た。
「そろそろクリスマスパーティーに行こうか」
夜も更け、時計のディスプレイが11を表示する頃になると、ティエリアはアレルヤと一緒にスメラギ主催のクリスマスパーティーを抜け出してきた。
いつも規則正しい生活を送っているティエリアが眠くて堪えられなくなったのだ。
ティエリアは部屋に入り、ベッドに座った。
「あれ、まだ寝ないの?」
「まだだ…、サンタに会ってない…!」
そう言うティエリアの目はもう既に座っている。舟を漕いでは意識が戻るの無限ループ。
「それじゃ、僕も部屋に戻るね」
また舟を漕いでいるのか否か判らないが、頷いたのを確認してからティエリアのプライベートルームを出ていった。
…10分足らずのティエリアのプライベートルームの前。
そこにはアレルヤがいた。ただ、先程と違うのは赤と白のサンタクロースの衣装に身を包み、包装紙にくるまれた箱を持っているという事だ。
プライベートルームの暗証番号を入力すれば、プシュンという音を無差別に発ててドアは開く。
気付かれないように抜き足、差し足、忍び足…。プシュンとドアが閉まるためにまた音がなった。
アレルヤはこの音が予想外に大きかった事に気付き、ティエリアが起きていないか彼を見た。
仰向けに寝ている彼は腹式呼吸を繰り返す。
…どうやら起きていないようだ。
再び近付いてベッドに横座りになり、包みを枕元に置く。
肘を付き、切り揃えられた真っ直ぐな髪をいとおしむように撫でる。
普段はきつい顔をしているが、今はあどけない表情で夢の中に居る。
そう思うと、アレルヤは頬を緩ませた。
カチャリ。
「来ると思っていたぞ、サンタクロース。」
「え…?」
サンタの右こめかみの辺り。構えられたのは一丁のピストル。
目の前に居る恋人はゆっくり紅い目を開き、笑みを浮かべる。しかし、笑みは絶えた。
「…君が、サンタクロースだった、のか…?」
「…あれ?」
12月25日。
「刹那、ロックオン、知っているか。サンタクロースの正体はアレルヤだったのだ!」
食堂でティエリアは刹那とロックオンに噂話と言うには大々的に昨夜の事を話していた。
刹那は関係無さげに聞いているが、ロックオンは苦笑いで相槌を打っている。
「初めからただの人間が世界各国の子供達の家をたったの一夜で回れるとは思ってはいなかったが、超兵の能力を持ってすれば…」
先程から嬉々として話しているティエリアをアレルヤは遠目から見ている。
ティエリアとは正反対にこちらはどんよりとしている。
ティエリアの話を聞いていたロックオンはアレルヤがこちらを見ているのに気付いたのか振り向いた。
苦笑いをこちらに向けて声には出さない一言。
「ドンマイ…」
†僕のサンタクロース