Short story
□Lucky Charm
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「みちる。なにしてるの?」
庭先で座り込んで,何かをしているみちるを見つけたはるかは,後ろから優しく声をかけた。
みちるは,ちらっとはるかを見たが,また真剣な顔で地面の方に視線をうつす。 「今ね,クローバーを探しているの。」
「クローバー?」
「ええ。」
みちるは,相変わらず真剣な眼差しでクローバーを探している。そんなみちるを見ていると,はるかはそれ以上何も言えず,そっと心の中で「頑張れ」と呟き,その場を後にした。
はるかは,リビングでくつろぎながら,庭でクローバーを探し続けているみちるを見つめる。
(一生懸命で可愛いな〜。)
「はるかパ〜パ!」
その突然の声と共に,小さな腕に後ろから抱きつかれたはるかは,
思わず前のめりになってしまう。
「こ・・・の〜!お転婆娘め〜!」
そう言いながらはるかは,絡み付いている小さな腕をひっぱり,その身体を自分の腕の中に引きこんだ。
「あはは!パパ降参〜!」
はるかの腕の中で暴れるのは,はるかの愛してやまない娘,ほたるである。
はるかの腕の中から無事に脱出したほたるは,はるかに一冊の本を差し出した。 「これだよ!パパ!」
ほたるが差し出す本の表紙は,いかにも女の子が読みそうなファッション雑誌だった。
「これがどうかしたのかい?」
「ここだよ。これ見て。」
ほたるが示してくれたそこには,大きな文字で,
"四葉のクローバー 秘密の力"と書かれていた。
「これ・・・,みちるがクローバーを探しているのは,この本の影響かい?」
「今ね,この本のおまじないが流行っててね!ラッキーアイテムを持っていると好きな人とラブラブになれるんだよ〜!」
「好きな人って・・・。」
「みちるママに話したらね,なんかすっごく興味持っちゃったみたいなの。」
「で,四葉のクローバーの秘密の力ってのは何なんだい?」
「四枚の葉に意味があって,いつも持ち歩くだけで,幸せになれるの!それに好きな人の写真と一緒に持ち歩くと恋愛運もアップなの!更には願い事を書いた紙と一緒に持ってると叶っちゃうんだよ!」
「ほたるもやってるのかい?」
「うん!」
「ほ・・・ほたるは好きな人がいるのか・・・?」
「え〜・・・。ナイショ〜!」
あははと高らかに笑いながら,ほたるは行ってしまった。
残されたはるかは,年頃の娘を持つ父親達と同じく,複雑な心境で,ポカンと口を開けたままという,普段では絶対に見られない表情のまま,その場に佇んでいた。