Long story
□出会い・第五章・
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新しい学校にも慣れ,お昼休みには,音楽室を借りて,バイオリンのレッスンをする事が,みちるの日課となっていた。
みちるは知らないが,このお昼休みの演奏会が,生徒達の間で噂となり,聞き付けた生徒達が,厳しい学校生活の癒しの場として集まるようになっていた。
穏やかで澄んだ美しい演奏を邪魔したくないと,生徒達は,それぞれに音をたてないよう気をつけながら聞き入っていた。
そんないつものお昼休みのはずが,この日はとんだトラブルがみちるを待っていた。
「海王さん。」
突然の呼び声に,バイオリンに没頭していたみちるはバッと顔をあげ,何事かと声の主をみつめた。
そこには,みちるの記憶にはない少女が立っていた。
同じクラスではないわね・・・。
少女は何故かみちるを睨み付けるような挑むような・・・,どうみても好意的ではない様子でこちらを見ている。
みちるは構えていたバイオリンを下ろし,一呼吸おいてから彼女に向き直った。
「何かご用ですか?」
少女はみちるを真っ直ぐに睨み付けながら,スタスタとみちるに歩みよってきたかと思うと,突然,右手を振り上げ・・・!
パ-ン!!
みちるの頬を・・・,平手打ちにした。
「どんな手をつかったの!?」
少女の声には怒りが含まれている。
みちるはジンジンする頬に手を当てながら,何が起きたのか把握するのに必死だった。
頬がヒリヒリと痛む。
少女は相変わらず,みちるを睨み付けている。
「突然,何をなさるの?」
少女は更にキッとみちるを睨み,
「清楚なお嬢様のフリをして本性はとんだ女狐だわ!」
少女の言葉にみちるは益々意味が分からず困惑した。この学校にきてまだ一月。誰かに恨まれるようになる程,誰かと関わった覚えはない。
「一体何の話をしてらっしゃるの?貴女はどなた?」
「とぼけないで!
知らないフリをするなんて汚いわね!」
少女は先程よりキツい口調でまくし立て,その勢いのまま,再び右手を振り上げた。
咄嗟に避けようとしたが,背にピアノが当たり行き場を失ってしまう。
みちるは,ぶたれる!と思った。
・・・だが,いつまで経っても背けた顔に予想した衝撃は降ってこない・・・。
みちるは,体勢を戻し相手の様子を伺った。
そこには,見知らぬ少女が二人・・・。
先程の少女の振り上げた腕を,突然現れた別の少女が片手で抑えている。
少女は均整のとれたスラッとした体型で,背が高く,肌の色は浅黒く,印象的な赤茶けた髪の色をしていた。
一目みたら忘れないだろう容姿をした少女は,掴んだ腕を離さないまま下ろし,少し強い口調で,
「やめなよ。
さっきから見てたら一方的に。
頭冷やして落ち着いてから話し合いな。」
「離して!」
怒りのやり場を失った少女は,ワナワナとしている。
だが,その場の不利を感じとったのか,掴まれていた腕をバッと振りほどき,背を向け去っていった。
残されたみちるは呆然とその背を見送った。
暫く呆けていると,髪の赤茶けた少女に声をかけられた。
「とんだ災難だったね。
海王みちるさん。」
とても親しみやすい優しい笑顔だ・・・。
「あ・・・,有り難うございます。
あの・・・,貴女は・・・?」
「私はエルザ・グレイっていうんだ。
宜しく。」
そう明るく笑いながら言うエルザの姿に,みちるはホッと気持ちが和むのを感じた。
「ところで何で絡まれていたんだい?」
「分かりません・・・。」
「気を付けた方がいいよ。
さっきの子は,学園きっての富豪の娘で,気に入らない事があると,色々裏でちょっかい出すみたいだからね。」