破壊天使×天使長

□【痛々しいlove】
3ページ/4ページ






B.


難解な感情。論理的思考は この際 無意味。(塵屑よりも要らないモノ)
不必要なループ。人類は何度でも同じ過ちを繰り返している。(ちっとも成長しない)
そんな稚拙で倒錯めいた感情に耽る 日曜日の午後。
晴天の下 ビルの屋上の手摺の上で羽根休めを2人でしていた時のこと。
私は手摺に腕を乗せて体を預けるように立っていた。
彼はというと不安定な細い金属製の手摺の上へ腰かけて 光に煌めいて透けるハニィブロンドを風に遊ばせたまま空を眺めていた。
私は彼の蕩けるような甘い色をした髪を見るたびに目が眩む。
(そして いつも“きっと蜂蜜のような甘い香りがするのだろうな”と思っている)

「 鳥だ 」
つられて空を見上げると 白い鳥が空高く飛んでいた。
その白い肢体は空の青さに輪郭を溶かして 薄く蒼銀色に滲んでいる。
「ねぇ…知ってる?ウリエルもあんな風に蒼銀の光を纏って 飛んでるんだよ。
 私はそれを知ってる。何度も何度も見ていたから」
うわ言のように呟く彼は まるで愛されることを知らない雛鳥のようである。

「大切なものが手に入れられないよりも。
 大切なものが いつか壊れる。或いは消えていく方が余程恐ろしんだよ…私。
 だけれど私は君が いつかいなくなってしまうことも理解してる」
『大切なのは手放さないようにすることじゃなくって いつ捨てられても耐えること』
唐突に彼は秘密を告げるように儚い声で呟いた。
私は彼の言っていることを ちっとも理解することが出来なかった。
だって それは私達の間柄では決して有り得ないと思っていることであったから。

「だけれど私は 貴方を置いて去るなんて。そんなこと決してしませんよ?」
「嘘。言葉なんていくらでも偽装できる。そんなのちっとも信用できない」
「何故?私達は人間と違って限りあるモノではないのに?」

「…だからじゃない。バーカ…」

少しだけ不機嫌に拗ねて 彼の身体が緩慢に後ろへと傾いだ。
スローモーション。
それは幻想的で 怠惰で そして悲痛な一瞬。瞬きと同じ130mm秒の世界。
考えるよりも素早く 私は彼の腕を掴んで引き寄せていた。

「…落ちるわけ ないのに」
『ちゃんと飛べるよ 君とおんなじで』と少しだけ物悲しい表情で彼は言う。
「でも堕ちそうには見えました」
そう言うと目の前の人は俯いて黙ってしまった。
駄々っ子のように手間のかかる人だな…なんて思う。

「ミカエル様 黙っていないで」
「……」
「ミカエル様」
「……」


「 ミカエル 」

耳元で小さく言葉を流し込むように名前を囁くと ほんのちょっとピクリと身体を反応させて彼は耳まで赤くなる。
私は表情で感情を表すことが得意ではないけれど 少しだけ笑いそうになってしまった。
「私は貴方と同じで闘うことを担う者の一人です。それは私の誇りであり幸福でもある」
「…そんなこと 知ってる」
「だからこそ。私は自分が壊れることすら厭わない。それが貴方の背を預けて頂く身ならば尚更に」
きっと私達は武器を手にし続けることだろう。安らぎを犠牲にして。
それでもそれが我々の存在意義ならば全うするのみだ。
夕陽に溶ける髪に 私は待ちくたびれてしまったキスを落とす。
蜂蜜よりも もっと清く懐かしい香りは こんなにも優しく私の世界を震わせる。


貴方の為なら傷付くことなんて ちっとも構いはしないのに。
(そして貴方は私にだけ その背を任せていればいい)



悲哀と幸福の色は不思議なことに どちらも蒼である。





誰かを愛するあまり 傷付けてしまうこと。
幸福で満たしたいのに そうできないでいる。
どうしようも出来ない もどかしいフラストレーション。
私の中の ありったけの愛情が どうか貴方に伝わりますように。
(私は ただ そのことばかりを願うだけだ)











 
 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ