焔緋×白銀

□【欲望の哲学】
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白銀 と 目の前の獣は赤い舌を覗かせて私の名を呼ぶ。
私は柔らかなソファの上でもなく まして真っ白なシーツの上でもなく。
固い壁に背中から強く押し付けられていた。
無機質な壁の冷たい温度が背中から伝わって僅かに寒気がする。
だけれど私は何の抵抗も示さなかった。ただ「クソガキ…」と小さく呟いただけだ。
もう一度「白銀…」と焔緋は私の名前を呼ぶ。
それは昶君や洸が呼ぶ私の名前よりも妙に熱っぽくて低い。
(でもなんだか 彼に呼ばれると脳が痺れる錯覚に陥る)

私は思考する。
こんなオカシな状況に陥っても 何故だかどこか冷静だ。
(殺されるかもしれないってのに?)
冷やかな視線で私は自分より随分と背の高い相手を見据える。
彼の翡翠色の瞳に私自身が映っている。
“あぁ…見つめられてるなぁ…”と頭の端で思っていた。
そう思っていたら 緩やかに。それこそ無駄なことなどヒトツもない動きで口付けられた。
私は どういうワケだか瞳を閉じて行為を受け止める。
唇から伝わる冷たく淀んだ感覚は闇の芳香そのもので 私はそれを飲み下すように受け入れる。
“…卑怯者…”と自分でも思った。裏切り者。
残った理性が私の この愚かしい行為を叱咤する。
やめろ。私は相手の胸を押し返す。それでも彼は私を拘束する腕を放そうとはしない。
やめろ。嫌だ。放しやがれ。私は拒絶の言葉を投げつけるのに どうしても離されない。

「なんで テメェは こう野性的なんだ」

私は呆れて溜息交じりに言葉を吐き出した。
吐き出したのと同時に彼は私の喉元に 唇で噛みついてくる。
ちゅく…と密かに生々しい音を渇いた空間に響かせるようにして。
いや…と身を捩ろうとしても許されない。囚われてしまっているのは解っていた。
油断なんて可愛いもんじゃない。初めから自分で受け入れたのだ 甘んじていた。彼に。
(こうなることなど本当は最初から解ってた。知っていた。でも気付かないフリをしていた)
(なんで?なんのために?)
私は己の馬鹿馬鹿しさに喉奥で密やかに笑いを噛み殺す。





「…ヒドくする…?」

私の問い掛けに彼はチラリと強い眼差しで私を見つめた後 ゆっくりと首を横に振った。
(それが愛情だって解っているのに ひどくして…と願ってしまう私は気狂いだろうか)
密やかな秘め事を告げるように彼の耳元にそっと囁くと。
彼は稀に見る凶暴さで私を封じて 鮮やかに私の全てを奪っていった。

















の共存。

(優しく愛されたいのに でも。私を乱暴に扱ってほしい)
もっと。私を物みたいに扱って。













 
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