白銀×昶(×白銀)

□【無彩色の感情】
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白い大地を 歩いた。
(歩いている感覚が無いので 移動していると言った方が余程正しいのであるかもしれない)

後ろを振り返ると風も無いのに辿って来た足跡が音も無く浚われて消えていった。
(人ってモンは 自分の軌跡を確認しないと こんなにも不安を感じるものなのか…)


一体全体 俺は何処から何処までやってきて。
何処を どう進んだのか。
(通って来た道程が無いのなら それは元々無かったのかもしれない)

チープな錯覚。
一人きりで。
半狂乱になって大声で叫びたくなった。
(だけれども そんなことしたって無駄なんだって 褪めた思考が歯止めを掛ける)



日常を煩雑な物に駆り立てられて生きている俺にとって この何も無い場所は酷く頼りなくて。
拠り所が無い。
無であることの怠惰な安心感と。
消えてしまいそうな寂寥感と。
(物事はシンプルな程 その輪郭が鮮明になるのだ)











“夢から早く醒めろ”

呟いた自らの声も空間に溶解して跡形も無くなった。
(今 発した?)
(元から出なかったかもしれない)
ジワジワと押し寄せる焦燥の波。
誰でもいい 覚醒を与えてくれ!
(あぁ どうか!)











 





「ご覧なさい」




聞き覚えのある声に視線を上げると 見慣れた華奢な容姿と。
プラチナの艶髪に黒服の人物が目の前に立っている。
モノクロの世界の中 その名の通りコイツは存在全てが“白”だった。




「白銀…」

無意識な安堵感に近付こうとしたけれども。
俺と彼の間には 細い有刺鉄線の金網が境界線のように延々と続いている。
相手が指し示す方向には 漆黒の空に溶け込むことなく飛ぶ 白い鳥。
(あの鳥には有刺鉄線も境界線も無関係だ)



「だけど 俺には越えられない」
「では お目覚めなさい 早く」



それは夢から?
それとも過去の記憶に?














「私は貴方を ずっと待っているのに…」


そう呟いて瞬きをした瞬間にポロリ…と。
相手の左眼から頬を伝って雫が零れ落ちた。
それが あんまり綺麗だったので 俺は彼が泣いているコトに今の瞬間まで解らなかった。
(そしてそこで初めて俺は彼が とても美しいことに気付く)

















目が覚めたのは昼過ぎの自室だった。
いつもと変わらず静かに隣に控える相手は 夢の中と変わらずにいた。そして深い海のような。
澄んだ空のような鮮烈な蒼い色彩を孕んだ瞳。
彼は殊更 穏やかに微笑む。
(ごちゃごちゃと小煩い色彩が氾濫する日常の中 これ程まで綺麗なモノを俺は他に知らない)


ありふれた日常との再会に 俺は幸福を噛み締めた。















(だけれど彼は俺でなく その向こうの存在を見ている)









【無彩色の感情】

(白い紙に好きな色を乗せて描けるように 彼の思考も感情も 俺の色に染められたならイイのに)








 
 
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