焔緋×白銀

□【ホメオパシィ】
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彼の胸に衝動的に顔を埋めてしまったのは きっと懐かしい香りがしたからだ。
(夜の 闇の 陰の芳香)
此方の世界は私にとって 苦痛以外の何物でもない。
私は でもその事実が酷く悲しかった。
(だって この光の王国は今は居ない彼の大切な世界)
(否 彼そのものかも知れない なのに…)
私は此処じゃ満足に呼吸することもままならないのだ。
それは最早この衰退し続ける感覚に馴れたとは言え変わらない。
空に溺れた魚みたいに 私は闇が欲しくて 呼吸困難なまま喘いでいる。

そっと肩に触れた手に 私は少し身体を強ばらせた。
どうして私は 今 相手に縋り付いているのだろうか。
一度は私を殺めた人に。
それでも やっぱり触れた掌には闇が満ちていて。
その感覚に安堵する。



「其方は追放された身…しかし その属性は変わらず闇であろう。
 此方に影世界が侵食すれば衰退せずに済む。違うか?」

「…それは…」

否定できない。
だって それは真実であるから。
だけれど その為に世界を成すタイトなバランスを崩すのは禁忌。






「余は…其方がおれば もう それで良い。
 世界の均衡の為と犠牲になって何とする?」

支配 独占 嫉妬…
それは きっと貴方が元は人間だからなのでしょう。
(自己犠牲を疎むのも 感情で行動するのも)
でも それは間違い。
間違っているコトなんです。
誰だって知らない誰かの為より大切な人の幸福を願う。
(それが自分の知り得ない誰かの不幸に繋がろうとも)
でも私は 私達はそうであってはいけないのに。
この世の中の均衡を保つ私達には許されない感情。









(神様って残酷)
(だって それは遠回しに 誰も愛してはイケナイってのと同義語)







“余は其方に優しくしてやりたいのに そう出来ぬのだ…許せ”


肩に触れていただけの手が 私の背に回って。
その腕でもって 更に彼の身体へ密着させられる。
緩やかに抱き締められるのと比例して 何だか私は切なくって。
何故だか泣きたくなった。
(貴方を抱き締め返せたら と思うのに)
でも私には出来ない。
込み上げる感情は 奥の方に飲み込んでしまって。
(そうして私の沈鬱は毒を孕んで蓄積していく)



 

「 …焔緋… 」

呟いた名前は 紅い灼熱を持っていて。
私の胸を緩やかな甘さを孕んで焦がしていく。
(それは遅効性の毒薬に蝕まれる感覚にも似ていた)
空間に呟きが落下して消え失せる その一瞬。
彼は困ったように寂しく笑って。
神聖なモノに触れるように そっと私に口付けを落とした。








(そして私は されるがままに白いシーツへ倒れ込む)












 
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