焔緋×白銀

□【アンヴィバレンツ】
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闇に紛れ込まない 灼熱の色をした彼は密やかなる物事のように告げた。
(私を蝶の標本みたいにベッドに縫い止めて)









「余は ただ其方を手に入れたかっただけなのだ」

言葉は夜の闇と奔流に巻き込まれ 呟きになって終まいには私の やや露わになった肌に落下した。
そんな小さな懺悔など 床に這い蹲る ちっぽけな塵に同じ。
出来事は 常に選択を強いられて後悔を残して消え去っていく。
だから 彼の嘆きは無意味なもの。
ただの自己満足であって 私は一体どうすればイイのか解らないのだ。






「焔と燃える緋色。
 その色に お前を染め上げられたならば。
 余は其方が我が物になるものと 錯覚していたのだ…」



「あぁ…愚かな人…」

時が経てば 血は酸化して最終的には黒くなるというのに。
(貴方はソレを ご存知でしょう?)
それが示唆するのは。


「結局は貴方でなく 私は永久に あの人の物」

倒錯した思考に うっとり…と 恍惚を孕んだ笑みを浮かべる。










(あぁ 私の対称)
(私の片割れ)
(強く気高い 光 そのもの)


 
けれどアノ人とは共に居ることは出来ない。
存在する世界が 違うから。
きっと。
どんなに望んでもアノ人とはヒトツになれやしない。
私と彼は永久に一対で交わることを知らないだろう。
(異なる属性の交錯は衰退を生み出し腐敗の一途を辿る)
(境界線を侵すことなく存在し続けなければならない)




なんて 残酷!
死をもってさえ彼と私は大いなる世界の奔流に抗うことも。
まして 放棄することも決して赦されない。
(死しても なお受け継がれる因子)
彼が光であることの。
私が影であることの。
それは契りよりも確かな証明。
(だれか この無慈悲な運命の束縛を解いて…!)









声にならない嘆きを受け止めて実行してくれたのは他ならない 私の支援者たる彼だったのだ。






本当はね。
少しだけ 感謝してる。
私と彼を殺してくれた貴方に。
誰にも どうにもならない憂鬱と慟哭から私達を救い出そうとしてくれた 貴方を。











「焔緋…貴方は酷い だけれど可哀想な人。
 そして優しい人。
 仕方が無いから私が愛してあげましょう ね」



 

私はアノ人の物。
貴方は私の物。
それを確かに ちゃんと覚えていて。
想う方が苦悩するように 想われる方も苛まされるのを。

(恋をする人と 愛せる人は違うもの)















「私が欲しいのなら 今度は貴方自身で私を染め上げてごらんなさい」

(その指で 唇で 言葉で)


白いシーツの上に私の髪と 彼の緋い髪が絡み合うように。
私達は倒錯的で無意味な感情のまま 暗闇に縺れ込む。
その行為で互いを満たすコトは無くとも。













(心は彼を 身体は貴方を求めてる)














の匂い
貴方の色彩に溺れた









今生のアノ人のベッドの上で 彼以外に乱される私。
(裏切り者は此処にいます)









 
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