テニスの王子様

□観察
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ここのところ、合間を縫って彼女を観察している。
観察をするのはデータ収集のため。

彼女の名前は高杉陽菜。
テニス部の顧問である竜崎先生が親しくしている友人のお孫さんで、
忙しい時に時々マネージャーのような感じで手伝いに来てくれている。
同じ高校の1年生の後輩。

理由はなんとなくデータを収集しようと思ったから・・・という、
俺にしては根拠のない珍しい理由。

少しでも合間に観察をしてしまっている自分が今度は分からなくなってきた。
他のものを観察しているよりも、自分の考えが分からないことのほうが重大なのに、
それでも気づいたら彼女を・・・

と、高杉が俺の視線に気付き振り返る。
そして、困惑した顔で俺に近づき、思いもよらぬことを言われた。
「先輩、私・・・何か行き届いてなくて迷惑させてしまっているんじゃ・・・
あの、ハッキリ言ってくださいね。私がんばります。」

俺がやたらと高杉を観察していたことが、
彼女にとっては何か失礼なことをしたのではと勘違いしてしまっていたようだ。
こんな風に思わせてしまうことに胸が痛んだ。

「高杉の勘違いだよ。
君は良くやってくれていたから、感心していたんだよ。」
俺の言葉を聞いた途端、パァッと晴ればれした表情になり、笑みがこぼれた。
その笑みが俺の中で何かが溢れる感覚がした。

駄目だ。まだまだ観察が足りない。
しかし、これ以上観察ばかりしていたらまた高杉が不安になるのではと考えた俺は勝手に口が動いていた。

「高杉」
「乾先輩?」
「頼みがあるんだけど、いいかな。」
「はい。」
「君のデータも取りたいから、継続して観察させてもらうけど、構わない?」
「え!?」

驚きの声を上げる高杉。
当然と言えば当然で、このとき俺は我に返る。

「あの、私テニスはあまり・・・」
と驚きつつ困惑して返す彼女に慌てて
「いや、人間観察なども趣味でね。何もテニスばかりじゃない。」
と半分本当で、半分嘘が入った自分でもハッキリしない返事をしてしまった。

「何かの役に立つならいいんですが、私なんて何も収穫が得られないような気がしますけど・・・
先輩がそれでもって思うなら、協力します・・・」
自信なさげに応えた高杉がとても可哀想に見えて、何故か抱きしめたい衝動に駆られる。
「ありがとう、よろしく頼むよ。」
ぐっと気持ちを押さえ込み、感謝の意を述べたが、なんだか迷惑なことを言ってしまったなと後悔した。

だが、せっかく了承を得たのだからしっかり観察しようと思うのだった。

- END -

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