〜拍手御礼小説〜
『その想いの行く先は』

<今までの話はこちらから>




『お早うございます、巴<トモエ>さん』
『あら、お早う紫苑<シオン>ちゃん。今朝も早いわね』
そう言って女性―――巴は紫苑に笑い掛けた。
『何かお手伝いをしたくって。することありますか?』
紫苑がそう尋ねると、巴は暫し思案し、
『そうね……、じゃあ、大変な仕事をしてもらってもいいかしら?』
と言った。
紫苑はその言葉に全て了解したように微笑んだ。
『分かりました。頼継を起こしてくるんですね』
巴は苦笑した。
頼継が実は物凄い低血圧で、しかも裏家業のせいで常に寝不足の為、朝彼を起こすのに相当労力がいることを知っているのはこの家に住んでいる者だけだ。
『じゃあ、行ってきますね』
そう言って紫苑は出ていこうとしたが、
『待って、紫苑ちゃん!』
巴に呼び止められた。
『何ですか?』
紫苑が振り返ると、丁度その時一人の男性が幼児を抱えてリビングに入ってきた。
『しおんおねーちゃんっ!』
幼児が笑顔で身を乗り出す。落ちそうになるのを男性が慌てて押し止めた。
『あら、周<アマネ>。おはよう』
紫苑は微笑んだ。その笑みに周はさらににこにこする。
『おねーちゃん、おたんじょうびおめでとー!』
『……え?』
『あっ』
紫苑は目を瞬かせ、周を抱える男性―――吟<ギン>はしまったと言わんばかりの顔をする。
『周!』声を上げたのは巴だった。『それはみんなで言う約束でしょう?まだお兄ちゃんも起きてないのに』
そう言うと、周は今にも泣きそうな顔になった。それは母に怒られたからではなく。
『よりつぐおにーちゃん、おこるぅ………?』
ここにいる周以外の全員が目を点にした。
周にとって、頼継は本当に恐い兄である。いつも不機嫌そうな顔をしていて、話しかけても一言二言返ってくるだけ。怒った時は、言うまでもなく最高潮に恐い。
『……ふふっ』
沈黙の中、最初に笑ったのは紫苑だった。
そのことに、吟と巴は軽く目を見開き、そして微笑んだ。彼女がこんな屈託のない笑みを浮かべられるようになったのはいつからだろう。
『周、大丈夫よ。私が代わりに頼継に怒られてあげるから』
『おねーちゃん?』
『私の誕生日を祝ってくれて、ありがとうね、周』
紫苑にそう言われ、周は満面の笑みで『うん!』と頷いた。
紫苑は周の頭を撫でて、巴を振り返る。
『巴さん、頼継を起こしに行ってきますね』
『えぇ、お願いするわね。紫苑ちゃん』
はい、と返事をしてリビングを出る紫苑の姿を巴と吟は見送った。
やはり彼女の笑顔は、“あのひと”の笑顔に似ている―――そんなことを思いながら。



(続)


さて、次回は主人公・紫苑の正体が明らかになります。
こちらの更新も頑張りますので宜しくお願い致します★★

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