Imparfait NOIR

□その想いの行く先は
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天照大御神は目を瞬かせた。
『……何故にそのようなことを?』
『豊受大神はかの方に会ったことがあると伺っております』
『違う。それを訊いて何とする、と訊いている』
頼継は視線を落とした。
『それは……』
ややあって、頼継はゆっくりと答えた。
『……かの方は、俺の伯父上……楠木正行の親友であったと聞いております。それに……』
それに―――…。
『……あぁ、そうだな。その通りだ』
天照大御神は目を伏せた。
『……答えて、やらないでもない』
頼継はハッと顔を上げた。
『天照大御神……?』
『だが、私は笠木千寿のことをよくは知らぬ。故に、豊受ならばこう言うであろうという前提の上で答えよう。良いな?』
『構いません』
天照大御神はほうと息をついた。
『笠木千寿は……』
豊受は、あれのことを何と言っていたのだったか。
それは。
『どこまでも、愚かで……、どこまでも、命知らずで……、そして、どこまでも………』
―――天照、あの男はな……。
『どこまでも一途な、男だった………』
頼継は目を瞠り、そして僅かに微笑んだ。
『そうですか……。やはり、そうだったのですね』
良かった、と呟いた声は、風にさらわれて消えた。
天照大御神は笑みを浮かべ、そしてふと思いついたように続けた。
『楠木頼継よ、対価と言ってはなんだが、一つ頼まれてはくれまいか?』
『……と、申しますと?』
天照大御神は優雅な笑みを浮かべた。
『豊受が眠りについて、もう幾年も過ぎた。この神域に蔓延(はびこ)る邪気を祓ってくれ』
頼継は目を瞬かせ、そして頭を垂れた。
『承知致しました』
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