Imparfait NOIR

□その想いの行く先は
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2031年、春。

所は伊勢神宮。時代錯誤な狩衣を着た青年が外宮(げぐう)、豊受大神宮とも呼ばれる場所を訪れていた。
『―――豊受大神<トヨウケノオオカミ>』
厳かに青年は呼び掛ける。だが、現れたのは彼が求めた存在ではなかった。
豊かな黒髪を靡(なび)かせ、大陸風の着物を纏った女性は口端を吊り上げた。
『そなたに会うのは初めてであったか、楠木頼継<クスノキヨリツグ>』
『……失礼ながら、御名をお聞かせ願えますか』
『天照。そなたも知っておるだろうな』
青年―――頼継は目を瞠った。天照大御神<アマテラスオオミカミ>とは高天原(たかまがはら)に鎮座まします最高神である。
『それは……、失礼を』
『別に構わぬ。ところで、豊受を呼んでおったな?』
頼継はハッと顔を引き締めた。
そうだ。
『豊受大神は何処に?』
『あれは永い眠りについた。懐かしき思い出と共に』
頼継は息を呑み、『そうですか……』と呟いた。
『豊受に何用が?』
天照大御神が問う。頼継は逡巡したように視線を彷徨わせ、ややあって答えた。
『尋ねたき事があったのです』
『尋ねたき事?』
『はい』
頼継はしっかりと天照大御神を見据えた。
『―――笠木千寿という方は如何なる方であったのか、と』
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