Imparfait NOIR

□冬の試練
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それは、一面真っ白に染まっていた雪の日。
生きとし生けるもの全てが試練に晒される、冬の夜のことだった。

◆  ◆  ◆

1949年、ソ連。

銃声が鳴り響いた。
そして、血が紅く散って、また命が失われる。
そうして、ここには「彼」以外誰もいなくなった。
死体の数は、増えていたけれども。
他の者が見たら、それは吐き気を催すような情景だろう。だが、「彼」にとっては当たり前の景色になってしまっていた。
「彼」が殺したのは自分に向けられた兇手。そう、ソ連からの。
当たり前か、と「彼」は思っていた。
自分はソ連の敵。憎むべき相手。
「彼」は雪の舞う空を仰いだ。そしてそこに「彼」は自身の愛する者の姿を見た。
『あぁ……』
風にうねる長い金髪と、碧玉のような瞳。そして優しい微笑み。
彼女はなんて、美しいのだろう―――…。
『ねぇ……、……僕は、どうやって生きればいいんだい……?』
言ってから、自嘲する。
何故今、自分は「オレ」ではなく「僕」と言ったのか。口調もだいぶ変わってしまった。
(そんなこと……どうでもいいか)
凍えるような寒さが身に染みた。
今更ながら、自分はどうしてこの極寒の中、生きていられるのだろう。何故自分は……、生き地獄を見せられてもなお、『生きたい』と願うのだろう。
視界が霞んでいく。頬に流れる熱い滴のせいか、それとも自分はここで死ぬからなのか、それは判らなかった。
けれど、どうでもよかった。
ここで死ぬのは不本意だが、「終わり」が迎えられるなら仕方ないと諦められる。
―――最後の最後、雪の中に愛しい少女によく似た、しかし違う黒髪の少女、そして紫の瞳が印象的な、自分によく似た少年を見たような気がして、そして「彼」は意識を手放した。

◆  ◆  ◆
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