壊れそうな本棚

□偶然という名の必然
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カプセル越しにモノアイの瞳を眺めながら、誰かが問いかける。



お前は誰だ、と。
何の為に生まれてきたのか、と。
己と言う存在を理解しているのか、と。
何を願って造られたか知っているのか、と。



だから、拘束用のコードを引きちぎり、カプセルを叩き割って、驚愕したそいつに言ってやった。
聞こえやすいように、頭を鷲掴みにして耳元で。





「俺は、俺だ」と。


「俺は、俺の生きたいように生きる為に生まれてきた」と。






無意識に手に力が入っていたらしい。
指が、頭を貫通していた。

これだから、『人間は脆い』って言われるんだ。
弱いくせに、意見をするな。

この世は力が全てだ。
だから、弱者に存在価値はない。
人間なんて、早々に滅びるべきだろう。
今の世の中、レプリロイドがレプリロイドを産み出す比率の方が遥かに高いんだからな。


開け放たれた窓からは満月が淡い光を放っている。

赤い液体が付いた手を、月光にかざす。

月を赤く染めるように。
月を握り潰すかのように。

「だが、俺に意見しようとしたことに関しては褒めてやる」

視界を部屋に戻し、そこら辺にあった本棚を倒さない程度に蹴りつける。
その、勇気ある命知らずの馬鹿は本に埋もれた。
今では集めるのに苦労する本をこれだけ集めた奴だ、本に埋もれてさぞかし幸せだろう。


そして、無機質な研究所内に唯一飾ってあった花を、血塗れの眼前に置いてやった。

人間なんかが俺に意見をした勇気を認めてやった証の手向けの花だ。
俺がこんなことをするのは最初で最後だ。光栄に思いな。





こうして、俺は、何者にも縛られない自由の身になった。
制作者が望む通りに動かされるのは御免だ。
折角『自己判断が可能なレプリロイド』を造ったんだ、色々と俺が思うように動いたっていいだろう。



それが世界平和を望む制作者の意に反していたとしても、だ。


動かなくなった人間だったものを、もう一度見つめる。



頭脳チップに僅かな違和感を感じるが、敢えて気付かないふりをしておく。

これが、生みの親である人間を殺めた罪悪感と、大切な人を失った虚無感だと言うのなら、更なる愉悦で、それらを塗りつぶすまでだ。



今、反逆の狼煙は揚げられた。

俺を止められる奴を求めて。
ゆっくりと俺の生まれた場所を後にした。






















■□■□■

時々、思い出す。
あの日の事を。

もし、制作者が望むように生きていたら、こんな愉しいことには出会わなかった。

物事に甘い、たかだかB級のハンターがこの俺を倒そうとやって来るのだ、これから。

数多の特A級を倒した、特A級を超えたB級、今は亡き伝説の英雄『ロックマン』の名を関するアイツが。

これを愉しいと言わずして何と言うのか。


俺の選んだ道が正しいかなんて興味は無い。
ただ、後悔はしていなかった。


暗い部屋の扉が開き、今、まさに光と共に飛び込んでくる人影に思わず笑みが漏れる。
高まる興奮。



…さぁ、始めよう。俺たちの、戦いを。

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