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□母としての願い。
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「…じゃあ、御休みなさい。母さん」


城に人も居なくなる、夜の間だけは、ホルンは女王陛下という肩書きから解放され、一人の母親に戻る。

「えぇ、御休みなさいリュート」


笑顔で退室する息子を見送ってから、ホルンは溜め息を吐いた。

「………おやすみって言ってから、あの子が安眠できた日なんかあったかしら………」


スフォルツェンドの王子、リュートは、人類史上最強と呼ばれる法力使いだった。
王子とはいえスフォルツェンドが女王国家の為、王位継承権は得られないから、代々スフォルツェンド王族の男性は、戦場で国を護る役職につく。
…リュートとて例外ではなかった。

人類史上最強と評されるその能力は、魔族をも凌ぐ程で、魔族からは『恐怖』を…、そして人類からは『尊敬』の意味を込めて『スフォルツェンドの魔人』と、呼ばれるほどだった。
十代前半という若さでありながら大神官に抜擢され、近隣の国が魔族に襲われていたら、昼夜問わずすぐに瞬間移動の呪文で飛び出して助けに向かうお人好し。

それ故に、少年らしい時間を過ごすことはあまり出来ないのが、ホルンは辛かった。
それに、親子でありながらホルンとリュートの関係は『女王陛下』と『大神官』であった。

親子として接する事が出来ない。
戦場から帰還し、多数の傷を負って帰ってくる息子に、何もしてあげられない。

母親として、心配を表に出すことは許されず、あくまでも女王陛下として、大神官としての戦果を評価することしか出来ない。

息子は息子で、笑顔で大丈夫だと傷を隠し続ける。

………それが、辛かった。
もっと甘えて欲しいのに、他愛もない話をしたいのに、ホルンの立場を知っていてリュートは自分の気持ちを隠し続ける。


あまりにも出来すぎているが故に、何も出来ない自分が歯痒かった。



「……せめて、せめて明日だけは…明日だけは魔族が大人しくしていてくれるといいのだけど…」

2月14日は、リュートの誕生日。
一年にたった一日だけでいい、リュートに年頃の男の子と同じような生活をさせてあげたかった。
戦場とは無縁の日を、送ってほしかった。




そんな気持ちを神に祈り、ホルンも床に入った。
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