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□大いなる翼を広げ
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「ニーナ………黒き翼故に王家を追われ…しかし、王家のためを想い、その身を消し去ろうとしてきた………」

詠うように、笑いながら。彼の口は言葉を紡ぐ。
その響きは、禍々しくも神々しく、辺りに響いて…霧散する。


………確かに私は消えることを望んでいた。

私が、災いを呼ぶ元凶なら、いないほうがいい。
そう、思って生きてきた。

………自分が、人に災いをもたらす存在と言われ続けて生きてきた。
自分がこの世に存在する、という現実に恐怖した。
人に怖がられるのも辛かった。
私は、何もしていない…のに…。

悲しかった。
苦しかった。


人々に、存在を忘れられて、消えることを、切に願っていた。


「そして、今…願いが叶う」

…でも、今は違う。

今の私は、生きたい。
生きて、いたい…!!

それが、私の…今の願い。


手が、ゆっくりと私の目の前に翳される。
水晶に固められた身体は、指一本動かせずに、ただ、目の前でこれから起こることを享受する事しか出来ない。

隣で砕かれてしまった二人のように、私もきっと砕かれるのだろう。

でも、心までは屈しない。

私達の想いは、リュウに届くはずよ。
だって、彼が教えてくれたんだから。

…私は何もしていなかった。
運命に抗おうとせず、ただ受け入れようとしただけだった。
何もかもを運命のせいにして、逃げていただけだった。

今は、違う。
旅をしてわかったから。
運命は、自らの手で切り開いていくものなんだって。

数々の出来事が、大事な妹が、大切な仲間が、そして……愛する人が、私に教えてくれた。

…だから、私は負けない。

運命から逃げる真似は、もう…したくない!!


ビシッという音が響き、水晶に大きな亀裂が入る。


…その音を聞いたリュウが動かない腕を必死に私に向けて伸ばす。
彼の、色んなものを見てきた澄んだ瞳から、涙がポロポロ流れている。




リュウ、お願い。
負けないで。

運命に、悲しみに。
そして、貴方自身に…。

私は、死なない。
私の意志は、貴方の中で生き続ける。

「彼女は、この世から、消える」



私は、砕かれた。
































暖かい光が、私を包んだ。優しくて、綺麗で、暖かい…まるで彼のような光だった。

やがて、光は収まった。

それを認識できた事の意味がわからなかった。
私は、砕かれたはず…。
認識できたということは、やはり死んだのだろうか。

しかし、一瞬でその思考は消え去った。


「良かった〜!!ランド、ニーナ!!生きてるよ、あたしたち、生きてるよ!!」

真っ先に砕かれたリンプーが居た。

「…確かに砕かれたのを感じたんだがな…。まぁ、これで、あの世にいる母ちゃんにブッ飛ばされずに済んだよ」

そして、ランドも。

「…良かった…みんな、無事なのね」

みんなが、生きている。
それが、本当に嬉しかった。

リンプーも、ランドも、私も。
…そして………

「………リュウは!?」

私達の近くには居ない。
彼は?
彼の身に、何かあったの?

「あっ!戦ってる!!リュウ独りで戦ってるよ!」

リンプーが指差す先を見ると、遠くで一人戦うリュウが見えた。


今まで、たくさんの事があった。
けれど、これがきっと最後の戦い。
私達に希望を託し、死んでいった人たちのためにも。これから今を生きる人たちのためにも。
大切な仲間のためにも。
自分自身のためにも。
彼のためにも。
私達は、負けられない。


「行きましょう!!」


新たな運命を、切り開くために。
生きる、ために。
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