みたらし団子時限爆弾添え

□おめでとう
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「えーでは、我等が真選組・一番隊隊長沖田総悟の誕生日を祝って〜…カンパーイ!!」

「カンパーイ!!!」

屯所に局長を務める近藤の音頭が響く。
沖田の誕生日を祝すという名目の宴会の幕開けである。

「隊長っおめでとうございます!」
「おめでとうございます!」

「よかったらコレ使ってください」

口々に隊士達から祝福の言葉と贈り物を貰う。


「…どーも」


少し照れ臭くなりながらも表には出さないように繕った。




騒がしい時間が流れ、もうじき日付が変わる時刻。
相変わらず隊士達は飲めや歌えやドンチャン騒ぎ。
もはや主旨など関係ない。

(相変わらずだねィ)

沖田は苦笑しつつそっと席を外した。


ギシギシと軋む廊下の音を聞きながら自室に向かう。
手には皆から貰ったプレゼントの数々。

部屋の灯を点け、ふうと一息。

彼の頭を皆の言葉がぐるぐると駆け巡る。

(…ありがとうごぜぇやす)

口元を緩め笑む。
その時だった。



『おめでとう…そーちゃん』



柔らかな声
とても懐かしい声
大好きな声が聞こえた気がした。

そしてふわりと肩を抱かれる感覚。


「…あ、ね上……?」


振り返ってもあるのは見慣れた障子。


(…わざわざ来てくれたんですかィ。……ありがとうございます)

肩に手を当て、亡き姉に礼を言った。

(そろそろ皆の所に戻らねェとな)

なんたって宴の主役は自分。
ガラリと障子を開ける。


「ひゃっ」


同時に短い悲鳴。
声をあげたそれはとっさに庭の茂みに隠れた。
…つもりなのだろう。
本人からすればきっと。

トレードマークの一つである髪飾りが葉からぴょこんと飛び出したままだ。


「………何やってんだお前」


額に手をやり、未だに隠れきったと思い込んでいるそれに声を掛ける。

「……………………。」

「髪飾り、まる見えですぜィ」

「マジでか!!」

指摘を受け反射的にその人物が立ち上がった。
万亊屋で助手を務める天人の少女、神楽である。

「…こんな時間にこんな所で何してんでェ。条例違反、ならびに不法侵入罪でしょっぴきますぜ」

「黙れサド!」

透けるような肌と朱色の髪。
それと対称的な蒼い瞳は闇夜にも眩しく映える。

「一体何事でェ」

「いや…その……び……とう…」

「は?微糖??」

すると少女は茂みから出て、ずかずかと自分の方へ向かってきた。

そして何故か俯き動かない。

「?」

「たっ…誕生日……ぉめでト」

闇夜に吸い込まれそうな程の囁き。
必死で言葉を紡いだ神楽は真っ赤だ。
どくん、と自分の心臓が大きく脈打つのが分かる。


「…な、んでそれを?」

らしくない。
動揺が隠せない。

「夕方街でジミーに会ったネ。なんか手に持ってたから何か聞いたら…お前の誕生日プレゼントだって…」

「なるほどねェ。……わざわざそれを言いにここまで?」

「ちがっ…」

そう言って上げた顔は未だにほてっていて。

(バカ正直な奴…)

「ありがとう…」

それは今まで見せた事のない優しい微笑。


「へ…?」

意外すぎる反応にますます赤い彼女。
その様子が可愛くて仕方ない。



「…で?」



しばし続いた沈黙を彼が破る。

「え?」

「アレは?」

「アレ?」

「その街で会った山崎とやらが持ってたヤツ」

「あ゛…」

「まぁ期待はしてませんがねィ」

「うるさいアル!わざわざ来てやっただけでも有り難く思うネ!!」

「へいへい」

「…うー……………お前がどうしてもって言うなら酢昆布…やってもいいアル」

「…出来るならもっと甘い物がいいんだがねィ」

「贅沢言うなヨ」

「あーあったあった」

半ば神楽の言葉を遮りながら言う。
そしておもむろにまだ赤みを帯びた柔らかな頬に口づけた。

「!?」

彼女は慌てて温かな感触が降ってきた所に手を当てる。

「プレゼント確かに貰いましたぜィ」

普段の飄々とした口調で言うと屯所の奥へと消えていった。


「な…なっ」


残された少女は言葉にならずただ口をぱくぱくさせる。


「こんのォ……バカ総悟ー!」


満天の月夜に高い声が響いた。




たくさんの人に祝われたそんな素敵な誕生日。







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