みたらし団子時限爆弾添え

□桜花爛漫
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冬の面影消え去る4月。
銀世界も今では一面桜色。



桜花爛漫。


季節が巡って真選組の屯所にも春がやって来た。
隊士達が早朝訓練に勤しむ庭先で誇らしげに桜が咲いている。


(・・・・眠ぃ)


ただでさえ朝に弱い総悟を、柔らかな日差しが夢へと誘う。
手は木刀を振りながらも視界は狭くなる一方だ。


「くぉら寝るな!!」


鈍い痛みが脳天を駆ける。
副長を務める土方による一撃。

普段ならば軽い身のこなしで彼の拳をかわし、憎まれ口の一つでもくれてやるところなのだが。
春眠暁を覚えずというか・・・。
この睡魔には到底敵わない。


「・・何すんでぃ。死ね土方コノヤロー」


ズキズキと痛む頭部を押さえ気だるい声で言い返した。


「それはこっちの台詞だ!訓練の最中に居眠りとはいい度胸だな、総悟!!」

「朝からきゃんきゃんやかましいですぜ。発情期の猫ですかィ」

「猫がきゃんきゃん鳴くかバカヤロー!」

「あ〜・・うるせぇ・・・早く死ね土方」

「てめっ・・・そこに直れぇ!!」

「御免被りまさァ」

重い瞼をこすりながら土方の木刀を避ける。

(あ〜・・かったりィ)



どうも春は苦手だ。
いつもに増して襲ってくる睡魔。
美しいが儚く散って行く桜。
その姿はどことなく亡き姉・ミツバに似ているようで。
総悟は思わず眉間に皺を寄せた。

(だりィ・・・)



―不快な気分のまま市中見回りに出る時間を迎え、やる気のない足取りで屯所の門へ向かう。

「・・・・・。」

何故か無意味にイラついている自分もなんだか腹立たしい。

(これだから春ってやつは嫌なんでさァ・・)

はぁ、と溜め息を吐き歩を進めた。
やがてくぐり慣れた門が見えてくる。

「・・・ん?」

目的地まであと少しという所で彼は足を止めた。
門の真下で唸っている朱色の少女が見えたからだ。

(チャイナ・・?)

透けるような肌に紅のチャイナ服、朱色の髪。それと対称的な蒼い瞳。
鮮やかなコントラストは淡い桜色に眩しく映える。

そんな彼女は愛用の番傘を閉ざされた門の上部に伸ばし、さらに自らつま先立ち。唸り声。
なんとも不思議な光景である。

一瞬愛しさと鮮やかさに目を奪われた総悟であったが、その妙な現実に我を取り戻す。

(な・・何やってんだあいつ)

背後で彼が見ているとは露知らず。
宙に浮かせていた踵を地に下ろすと

「よしっ!」

神楽は満足気に言い放った。


「何が『よしっ!』なんでェ」


「ぅわあぁあ!」

思わず悲鳴で返す少女。

「驚くのはこっちの方でさァ。何してんだこんなとこで。不法侵入でしょっぴきますぜ」

「ななななっ何でもないアル!」

「何でもない訳ねぇだろィ」

明らかに慌てる彼女を問いただす。

「何でもないって言ったらないアル!」

「あのなぁ・・」

「そんな事より!!!」

「・・・はぁ。そんな事より?何でさァ?」

神楽がなんだか必死だったので、溜め息混じりに会話の主導権を譲ってやる。

「今から市中見回り・・行くアルか?」

「?・・あぁ」
さっぱり彼女の思考が読めない。

「間に合ったネ!ちゃんと門から出て真面目に仕事するアルよ」

満面の笑顔を浮かべそう言うと、神楽は夜兎持ち前の脚力で一気に門の上に跳び上がった。

「は?ちょっ・・おぃチャイナ!」


「総悟」


思わぬところで名を呼ばれる。
付き合い出してからもそう呼ばれるのは珍しいのに。
完全にふいをつかれ、彼は柄にもなく赤面してしまった。

「な・・何でェ」

照れくさくてついはねっ返りな言葉を返す。

「・・春もなかなか良いものアルよ?」

「・・・は?」

「じゃあナ!」

そう言うが早いか愛しい少女は去って行った。

「何なんでェ一体・・。意味わかんねぇ」

不可解な行動にガシガシと頭を掻き、屯所の門を押した。


―その瞬間、桜の雨、雨、雨


「・・・え?」

突然の事に一瞬頭の中が白くなる。


『ちゃんと門から・・・』


蘇る言葉。


(・・・なんでェ・・アイツ。・・チビのくせに無理してこんな事しやがって・・・)


背伸びし過ぎてぷるぷると震え、珍妙な唸り声をあげていた朱色の少女。


「・・・・・・・ぷっ・・はは、あははははは」


その姿が可愛くて可笑しくて。
たまらなく愛しくて。
総悟は珍しく声を上げて笑った。


『春もなかなか良いものアルよ?』


(・・・あぁ、そうだな。違いねェ)



見回りが終わったらその足で愛しい君に会いに行こう。





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