短編(本棚)

□心の氷、溶ける日
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私の心は氷の様に冷たく、固まっている。
人の生死にはあまり関心を持たない。
人となるべく関わらないようにしているから。

それが周囲から見れば冷たいのだと言う。

その通りだと思う。
自分でも私は人としての感情を捨てていると。

大切なもの作れば身動きが取れなくなってしまう。
だから私は独りでいい。


「呂蒙殿、頼まれていた書簡を届けに参りました」
「おぉ、陸遜。すまないな」


その日の朝、師とも言える呂蒙殿から頼まれた書簡を届けに彼の部屋にやってきた。
けれどそこには先客がいた。

見たことのない顔。
茶色よりも明るい、金のような髪の毛を逆立て、腰には鈴。
その体躯から武将の様だけれど。


「そういえばお前は会うのは初めてだったな」
「はい…どちら様でしょうか?」


そう見上げるようにして尋ねれば、その男は私の顔を覗き込んできた。
そしてじっくり値踏みする様に見てくる。

私は少し眉を寄せた。


「……こいつ、オッサンの女?」


この一言に私は頭に来た。
けれど軍師たる者、ここで表情に出してはいけない。


「私は女ではありません。陸伯言といいます。これでも軍師、そして武将です」


はっきり言うけれど納得していないようだった。
だが、呂蒙殿が頭を叩き言い聞かせてくれた。


「陸遜の言ってる事は本当だ。こう見えてもわしより軍師の才能はある。剣の腕も一流だぞ」
「ふ〜ん……女みてぇな恰好して戦えんのか?」
「興覇!!」


男の暴言に、流石の呂蒙殿も声を大きくした。
私はといえば、いつもの冷静さを取り戻していた。
呂蒙殿が代わりに怒ってくれているから、別にかまわないと。
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