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□checkmate
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気が付くと、一課の部屋からは離れた、いつもは使わない喫煙所に居た。


震えが治まらなかった身体も、ようやく落ち着いて。

喫煙所の中に居るのに煙草も吸わず、放心状態の伊丹はただぼんやりと、一人佇んでいた。


(戻ら…ないと……)


書類を渡しに行っただけなのに、さすがに遅過ぎるだろう。

芹沢か三浦が携帯にかけてくるのも、時間の問題だ。


「……」


伊丹はゆっくり立ち上がると、喫煙所のドアを開けようとした。


ところがその時、向こうから誰かが入ってきた。


「…薫…」

「伊丹、こんなとこに居たのかよ。芹沢が、お前が行方不明だって騒いでて…」


伊丹は返事をすることも、瞬きすらすることもできないまま、その場で固まってしまった。


「伊丹…?どうしたんだよ」


力無く座り込む伊丹の顔を、薫が覗き込む。


蛍光灯で煌々と明るい喫煙所の中。


薫が見たものは、自分が付けた筈のない首筋の跡。


「何だ……この跡」


薫の真剣な声を、久々に聞いた気がした…。

「……ごめん」


「何でそんな簡単に認めちまうんだよ!!」


バシッ!


思考より先に身体が反応していた。

思わず伊丹の頬を殴っていた。


「…ッ……いくらでも…殴れよっ…!でもっ…」


「何でだよ!何で他の野郎と…!」


頭に血が上った状態の薫は、伊丹の胸ぐらを掴むと相手の名前を聞き出そうとした。


「……相手は誰だよ」


「…言いたくない」


「……ああ、そうかよ。だったら2度とお前の家には行かないから勝手にしろ」



薫がドアを乱暴に閉めて、喫煙所から出て行った。


「………」


伊丹は薫を引き止めることも、泣き叫ぶこともできないまま。



静かに喫煙所を出て、一課の部屋へと戻っていった。
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