K-on!

□I love...
1ページ/1ページ



「律先輩、好きな人っていますか。」


ある日の夕暮れ、帰り道。
ギター背負って歩く私と、軽そうな鞄持って揚々と歩く律先輩。
初めてかも知れない。
彼女と、律先輩と一緒に帰るのは。
なぜかと言えば、ムギ先輩、唯先輩、澪先輩、それぞれが同じタイミング、つまり今日に予定を作っていたのだ。
だから私は律先輩と二人で部活をして(軽くセッションしただけだけれど)、律先輩が一人では危ないだろうからと、私たちは同じ帰路についているのである。
なんとも言えない雰囲気だ。
律先輩から話題が出される事もなく、ましてや私から話し掛ける事もなく、黙々と私の家に向かって、二人、微妙な距離を保って歩いていく。

そうだ。
だから、私は彼女との二人きりに不慣れで、この雰囲気に最も相応しくない言葉を、疑問を彼女に投げかけた。
返ってきたのは沈黙。
ではなく、少しだけ困ったような律先輩の笑顔だった。

「いきなり変な話題だなあ。」
「変?変ですか?
女子高生が最も好む話題の一つですよ。」
「私たちに色恋沙汰は似合わんだろ。」
「"たち"って…私に恋は似合いませんか?」
「…どちらかと言えば、な。」
「心外です。私だって、人並みに恋だってします。」

意外そうな目で見てくる律先輩に少しだけイライラ。
私ってそんな風に見られてるのかな。
なんだか泣きたくなる。

「ごめんごめん。」

私が黙ったのを見て焦ったのか、切羽詰まったように、けれど明るい風を装って、律先輩は謝りながら私の頭を撫でた。
その触り方は乱暴で、髪がだんだん崩れてくる。
けれど…なぜかとても温かかった。

「…もう。」
「へへ。」

どうしてこの人に撫でられると、泣きそうになるのだろう。
答えは極めて簡単だ。
"私"は"律先輩"のことが"好き"だから。
そして、"律先輩"は"澪先輩"のことが"好き"だから。
撫でられるのは私の特権だ。
けれど律先輩の心は澪先輩のものだ。
彼女の隣に立っているのは私ではない。
綺麗でかっこよくて頼れて、そして彼女の事をよく知っている澪先輩だ。
だから、泣きたくなる。
私と彼女を繋いでいるのは先輩と後輩という事だけだから。
澪先輩に敵う事はないから…

私は…







気付けば空は暗くなっていて、すでに7時を回っていた。

「…律先輩、早く帰った方がいいんじゃないですか?
もう7時です。」
「えっ?いやでも送らないと…。」
「私だって子供じゃないんですから…。
それに大丈夫ですよ。ここから家近いですから。」

そうか?と律洗車が私を覗き込むが、私はつい、と視線を逸らして、道の曲がり角に走った。

「ちょ、梓!?」
「ここまで送ってくださってありがとうございましたー!」

いつもなら出さないような大きな声で、いつもなら言えないような事を叫んだ。
彼女は一瞬ぽかんとして、次の瞬間には笑顔になっていた。

「おう!また明日な!!」

そう叫んで腕が千切れるくらいぶんぶんと手を振ってくれた。
その笑顔が眩しくて、無性に泣きたくなった。

好き、好きです大好きです。
泣きたくなるくらい大好きなんです。
澪先輩のとこになんて行かないでください。
ずっと頭を撫でてください。
毎日一緒に帰ってください。
私を貴女の隣にいさせてください。


私は律先輩が帰ったあと、その場でばかみたいに泣いていた。




気付いて下さい、
(でも気付かないで)






――――――――――――
律←梓は絶対せつないと思いました。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ